下水道展2026 特別連載|第5回 24年分のノウハウが、形になった現場 — 玄海町・北部浄化センター
5つの現場でたどる、セイスイ工業の仮設水処理の歩み
「なんじゃこりゃ」から始まった現場
連絡が入ったのは、事故が表面化した翌日の朝でした。佐賀県玄海町の北部浄化センターという下水処理場で、地下ピットのポンプが壊れ、地下2階分が汚水で水没してしまっている、と。
この施設は、週に1回だけ巡回点検する省力化された下水処理場でした。週末に技術者が訪れてドアを開けたら、地面から30センチほど下まで汚水が満ちていた。「一言目に『なんじゃこりゃ』が自然に出た」と聞いています。
その時点で1日500〜600㎥の汚水が流入し続けていました。地元の管理会社が動き、九州全域から30社ほどのバキューム業者が集められ、常時20台ほどの車が24時間体制で隣町・唐津市までピストン移動を続けていました。バキューム車1台が運べるのは約10㎥。地下10メートルからの吸い上げに30分〜1時間。1日600㎥を運ぶには60往復。気が遠くなる作業です。

宿で晩御飯を一緒に食べる、ということ
当社はちょうど宮崎の現場に入っていたところで、翌日にでも飛ぼうとしたのですが、「いま現地は本当に手が回らない、もう少し待ってほしい」と返事があり、いったん千葉に戻りました。3日後、改めて「来てほしい」という連絡。翌日の飛行機で佐賀に入りました。
宿は地元業者が20人分まとめて確保してくれていました。玄海原発がある町で、もともと宿の数が多くありません。同じ宿には、ピストン移動に動員されたバキューム業者の方々が泊まっていました。

晩御飯のときに話を聞いてみると、現場の本当の状況が見えてきました。「もう、明日にでもやめられるならやめたい」。バキューム業者は4〜5台の車を持っている会社でも、普段の仕事は3台で回しています。残りの1〜2台は予備で、トラブル対応用の車です。今回のような事故は普段から想定されていないので、人も車も急遽の動員になる。結果として、会社の社長が自分でハンドルを握り、夜なべでピストン移動をしている、という状態が続いていました。
これは、いつまでも続けられる体制ではありません。電話で構成を提案するのではなく、現地に行って自分の目で見たうえで、宿で本音まで聞いたうえで提案する — これは、第1回〜第4回までの現場でも繰り返してきたやり方です。
「水を処理する」前に、「時間を作る」タンクを置く
現地を確認した時点で、頭にあったのは、最初から本格的な水処理設備を組むことではありませんでした。順番として、まずは現場の負荷を下げる「バッファ」を作るほうが先でした。
地下10メートルの蓋ピットは、容量がおよそ50㎥。1日500〜600㎥が入ってくる前提だと、満タンになる前に何度も汲み出さないと溢れてしまう。だから24時間ピストン移動が止められない。
そこで考えたのが、地上に直径9メートル・高さ9メートルほどの500㎥タンクを2基設置し、まずそこに汲み上げてしまう、というやり方でした。タンクに水が入れば、あとはバキューム車にホースをつないでバルブを開けるだけで、高低差で5分ほどでタンクいっぱいになります。これで、24時間ピストンが、昼の8時間で1日600㎥を運べる体制に切り替わります。
桜を切る、と決める
タンクを置く場所が問題でした。下水処理場の敷地内には、桜が20〜30本ほど植わった公園のような一角がありました。蕾がほころび始めた季節です。そこを使わせてほしい、と頼みました。「桜は全部切ってください、そこをタンクのスペースに使えれば、提案が実現できます」と。役所側の判断が早かったのが、この現場の救いでした。担当課長や町長クラスが「すぐに進めていい」と動いてくれた。普通であれば、予算・議会承認といった手続きで時間がかかるところを、最低限の判断だけで進められました。
タンクは2基を並行で組むよりも、1基ずつ完成させていく工程に整理しました。1基目が4日で立ち上がった時点で、バキューム車の作業時間は半分に減らせる。残りの2基目はそのあとに組む。机上の合計工期はほとんど変わらなくても、現場でバキューム車を回している人たちにとっては、半減のタイミングが1日でも早いほうが、はるかに大きい意味を持ちます。

Habuki と MBR を組み合わせた、本格仮設プラント

タンクで時間を稼げたら、次は本格的に水を処理して海へ放流できる仮設プラントを組みます。Habuki という前処理装置と MBR を組み合わせる構成です。Habuki は通常、東芝に発注してから納品まで1年ほどかかる機械で、たまたま当社が1年ほど前に発注しており、ちょうど事故の起きた1月末にこちらに納品される予定でした。これは運の側面が大きかったと思います。
MBR は当社の常時保有機器ではなかったので、急遽手配して1ヶ月ほどでセッティングまで持っていきました。本当にバタバタの立ち上げでした。
砂糖200kg と、地元スーパー巡り
仮設プラントを立ち上げた直後の2週間は、Habuki に投入したバチルス菌を増やすために、砂糖を1日10kgずつ投入する必要がありました。地元のスーパーをまわって、最初に60kgほど買い集めましたが、合計で200kgが必要でした。「あの店もこの店も、砂糖を全部下さい」というやりとりを、何度も繰り返しました。派手な工事ではないけれど、こういう細々した雑事の積み上げで現場は動いていきます。
動かし続ける1年 — そして24年分のノウハウが、ここに収まる
最初の頃は1日15〜20時間、夜中に3回現地に通い、運転状況を確認する日々でした。携帯通信を使ったエラー表示や、現地の総合操作盤も、後から追加で組み込んでいきました。自動化がある程度進み、昼間の管理だけで回るようになったのは、稼働から3ヶ月ほど経った頃です。本設備が再構築されて当社の仮設設備を撤去するまで、結果として翌年2月末まで、約12〜13ヶ月運転しました。
この玄海町の現場には、第1回(福島県の下水処理場)〜第4回(長野市の下水処理場)までの24年分の経験が、いろいろな形で効いていたと感じています。
- 第1回(福島県):機械を詰まらせない運転設計、消化槽以外でも「直接吸って直接送る」発想
- 第2回(千葉市):し渣除去・脱水ライン構成のノウハウ
- 第3回(仙台・多賀城):被災現場で「動かし続ける」ためのオペレーション
- 第4回(長野市):被災設備の中で、半年以上動かし続ける設計
24年前には、桜を切ってタンクを並べる、というシンプルな判断を即決で行えるだけのノウハウは、当社にもまだありませんでした。一つひとつの現場で詰まりながら、装置を考え、運転を考え、ロジスティックを考えてきた、その積み重ねが、ようやく一つの形に収まったのが、玄海町の現場だったと考えています。

流入が止められない下水処理場を、貯留・前処理・生物処理で段階的に立て直す
設備故障によって地下2階分が水没した下水処理場では、1日500〜600㎥の下水が重力で流入し続けていました。本格的な仮設水処理プラントを立ち上げる前に、まず500㎥の組立式円形タンクを設置し、現場に「時間のバッファ」をつくるところから対応を始めました。
処理対象
- ● 設備故障によって地下が水没した下水処理場
- ● 流入量:1日500〜600㎥
- ● 重力流入のため、下水の流入を停止できない状態
- ● 地下ピット容量:約50㎥
- ● 満水が頻発し、溢水する危険がある状態
- ● バキューム車20台が24時間体制で地下約10mから汲み上げ、隣町まで搬送
フェーズ1:時間のバッファをつくる応急処置
設置した設備
- ● 組立式円形タンク:2基
- ● 1基あたり:直径9m × 高さ9m
- ● 1基あたりの容量:約500㎥
運用方法
- ● 地下ピットから地上タンクへ下水を汲み上げる
- ● バキューム車は、地上タンクから高低差を利用して排水
- ● バキューム車の吸い上げ時間を約1時間から約5分へ短縮
- ● 24時間体制を、昼間8時間の運用へ軽減
タンクは2基を同時に完成させるのではなく、1基ずつ段階的に立ち上げました。完成した設備から順に使用を開始し、その時点ごとに現場の負荷を下げる工程としています。
フェーズ2:本格仮設水処理プラント
採用した装置構成
- ● し渣除去機:髪の毛・繊維・紙くずなどを除去
- ● Habuki:バチルス菌を活用してBODを前段で削減
- ● 曝気槽:応急処置で設置した500㎥タンク2基を転用
- ● MBR装置:膜分離活性汚泥法による仕上げ処理
- ● 既設UV処理設備:被災を免れた地上設備を継続利用
微生物処理の立ち上げ
- ● Habukiにバチルス菌を投入
- ● 初期の炭素源として糖類を投入
- ● 通常約2か月かかる立ち上げを約3週間で実現
- ● バチルス菌の効果により余剰汚泥の発生を抑制
処理フロー
地下ピットから下水を汲み上げ、し渣除去、Habukiによる前処理、曝気、MBR処理、既設UV処理を経て海洋放流します。
初期投入:Habukiの立ち上げ時には、バチルス菌と糖類を投入し、微生物処理の早期安定化を図りました。
処理規模・実績
設計上のポイント
- 1 流入を停止できない現場では、本格処理設備の設置前に一時貯留タンクを設け、時間のバッファを確保する。これにより、応急対応の人的負荷を大きく下げられる。
- 2 円形タンクは現地で組み立てられる仕様にしておくと、被災地や遠隔地でも大型クレーンや完成品輸送に依存せず、短期間で設置しやすい。
- 3 設備を同時に完成させるより、完成した設備から段階的に使用を開始する工程のほうが、流入が続く緊急現場では早く効果を出せる場合がある。
- 4 HabukiとMBRの組み合わせは、設置スペースが限られ、短期間で微生物処理を立ち上げる必要がある現場に適している。
- 5 バチルス菌を早期に立ち上げるためには、初期の炭素源となる糖類の確保が必要。現地で継続調達できる経路を、運転開始前に確認しておく。
- 6 既設のUV処理設備など、被災を免れた設備は可能な限り活用する。仮設設備と既設設備を組み合わせることで、新規調達範囲と全体コストを抑えられる。
連載のおわりに
5つの現場で積み重ねてきた、仮設水処理の現在地
5つの現場を、時系列で振り返ってきました。共通しているのは、いずれも「想定通りには進まなかった」現場だったということです。
24年前の福島県の現場では、単管パイプで組んだ架台が稼働中に揺れ、機械内に500kgの汚泥を詰まらせ、夜中まで手で掻き出していました。千葉市の現場では、髪の毛のタタミイワシを前に1ヶ月半止まり、九州まで機械を借りに行きました。
仙台では、街全体が有機物の微粒子に覆われたなか、ハイエース車中泊で2年通いました。長野市の現場では、雪国の冬を最初から織り込んだ仮設プラントを、半年以上動かし続けました。そして玄海町では、桜を切ってタンクを置き、HabukiとMBR、既設UV処理を組み合わせて、法令基準・施設基準を満たす水質まで仕上げました。
5つの現場で残ったもの
福島県の下水処理場
架台、運転制御、直接送泥。現在の仮設水処理につながる基本を学んだ現場。
第1回の記事を見る 〉千葉市の下水処理場
し渣除去、前処理、脱水ラインを組み直し、消化槽浚渫の原点となった現場。
第2回の記事を見る 〉仙台市内/多賀城市の下水処理場
大規模被災地で「動かし続ける」ことの本質を学んだ現場。
第3回の記事を見る 〉長野市の下水処理場
雪国の条件を織り込んだ仮設設計と、半年以上の運転継続につながった現場。
第4回の記事を見る 〉玄海町・北部浄化センター
貯留、前処理、生物処理、既設活用。24年分の経験が一つの形に収まった現場。
第5回の記事を見る 〉どれも、決して「うまくいった話」とは言えません。それでも、お客さまから預かった現場をやり切ってきた経験のなかで、当社は少しずつ、いまの「仮設水処理」の形にたどり着きました。
各回の「処理の組み立て(参考)」には、現在であれば同種の現場をどう組むかも整理しています。お困りごとの参考にしていただければ幸いです。
下水道展2026で当社のブースに立ち寄っていただいた方には、ぜひ現場の話を直接お聞かせください。本連載に書ききれなかった話も、まだまだたくさんあります。
関連リンク
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