下水道展2026 特別連載|第4回 千曲川決壊と、雪が降る前に — 長野市の下水処理場
5つの現場でたどる、セイスイ工業の仮設水処理の歩み
ニュースで覚えている方も多い、あの一連の災害
きっかけは、ニュースで覚えている方も多いと思います。台風19号で千曲川の堤防が決壊し、新幹線の車両基地が水没した、あの一連の災害です。市街地一帯が水につかり、屋根しか見えていない映像が、何度も放映されていました。
長野市にあるこの下水処理場も、その災害で大きな被害を受けました。地上5メートルほどまでの浸水で、地下構造物は全滅。水処理設備も、地上のものまで含めてほぼ機能を失っていました。
当社に話が来たのは、災害発生から2週間ほど経ったタイミングです。現地に入ったのが2019年11月3日。同じ日に福島県の別件にも入った後、無理やりその足で長野まで動いた、というのが当時の動きでした。

「他社の機器は5㎥/h、当社は20〜30㎥/h」というだけの理由
下水処理場としては、1日数千〜数万㎥規模の水処理が必要な現場でした。水処理設備自体の復旧は他社が担当することになり、当社は汚泥処理側を任されました。
声がかかった経緯はシンプルでした。汚泥処理機器として、当時ほかに声がかかった会社の機器は時間あたり5㎥程度。これでは規模に追いつきません。当社は時間あたり20〜30㎥処理できるデカンタ型遠心分離機を保有していたので、依頼が回ってきた、というだけの話です。
組み立てたラインは、ごく標準的なものでした。被災現場では、この「標準を、確実に動かし続けること」がそのまま大仕事になります。
「雪が降る」を最初から織り込む
長野は豪雪地帯です。仮設の設備をそのまま屋外に組み立てただけでは、雪が降った時点で機能しなくなります。

そこで最初から、エッジング材で柱と屋根を組み、上にはシートを張って、雪が積もらずに落ちる構造に設計しました。本格的な復旧までには半年以上かかる前提でしたから、その年の冬を越せる設計が出発点になります。
「最初に組んだものを、後から雪対策する」のではなく、「最初から雪まで含めて設計する」。被災現場の仮設プラントでは、こちらのほうが結果として早く、安全に立ち上がります。冬を想定したうえで、配管の凍結対策(電熱線)も、最初から設計に組み込んでおきました。第3回(仙台・多賀城)で書いた「動かし続けるためのオペレーション」が、ここでは「動かし続けるための設計」として現れた、ということでもあります。
喉がやられる現場で、半年以上
硫化水素の影響は人体だけにとどまらず、機器にも及びました。なかでもインバー被災した下水処理場は、たまっていた汚水・汚泥から強い硫化水素が出ていました。マスクをしても、説明や打ち合わせで外す瞬間にやられます。喉がやられる現場で、長時間の作業を続けることになりました。
ター盤の調子が崩れやすく、交換対応が必要になった場面もあります。同種の現場でどう抑え込むかは、当社の中で現在も対策を続けているテーマです。
派手な逸話ではありませんが、こうした条件のなかで何ヶ月も動かし続ける覚悟が、仮設水処理の現場には必要になります。

まとめ — 水処理本体と汚泥処理、それぞれが噛み合うことで現場が回る
長野市の現場で問われたのは、設備を組む技術だけではありませんでした。雪・有害ガス・継続的に流入する汚水。被災して傷んだ施設のなかで、半年以上にわたって安定的に汚泥を処理し続けるオペレーションが、求められたものでした。
水処理本体は他社、汚泥は当社、という分担で、それぞれが噛み合うことで現場が回りました。災害時の復旧では、こうした分担と接続の設計も、機器の話と同じくらい大事になると感じます。
水没した下水処理場の汚泥を、前処理・脱水・冬季対策まで含めて組み立てる
台風被害で水没した下水処理場では、災害由来の大量の砂分・し渣が混入し、強い硫化水素の発生も想定されました。汚泥処理設備だけでなく、雪国の冬季運転を見据えた屋根・シート・凍結対策まで含めて、仮設処理設備を設計しました。
処理対象と装置構成
処理対象
- ● 台風被害で水没した下水処理場の汚泥
- ● 1日数千〜数万㎥規模の流入水処理が必要な施設
- ● 災害由来の大量の砂分・し渣が混入
- ● 強い硫化水素の発生を想定
採用した装置構成
- ● し渣除去機:髪の毛・繊維分を除去
- ● 砂除去機:災害で大量に流れ込んだ砂分を前処理
- ● デカンタ型遠心分離機:1時間あたり20〜30㎥の処理能力
- ● 屋根・シート付き仮設架構:エッジング材で柱と屋根を構成し、シート張りで積雪を落とす設計
- ● 配管の凍結対策:冬季の凍結を想定し、電熱線を設計段階から組み込み
処理フロー
被災汚泥を、し渣除去機と砂除去機で前処理し、デカンタ型遠心分離機で脱水ケーキと処理水に分けます。
運用条件:全工程を屋根・シート付き仮設架構の中で運用し、積雪・凍結を前提に処理を継続。
処理規模・運用条件
設計上のポイント
- 1 災害復旧の汚泥処理は、機器の処理能力が初期選定の決定要因になる。連続式のデカンタ型遠心分離機でないと、処理規模に追いつかない場面が多い。
- 2 雪・積雪・凍結への対応は、「あとから屋根を被せる」よりも「最初から仮設架構として組み込む」ほうが、工期と安全性の面で有利。配管の凍結対策も最初から組み込む。
- 3 硫化水素・有害ガスの発生を前提に、マスク・換気・作業時間の管理を含めた運用設計が必要。
- 4 硫化水素はインバーター盤など電気機器にも影響が出ることがある。同種現場では、発生量と接触経路の事前評価、および交換可能な部材手配を視野に入れる。
- 5 水処理側と汚泥処理側が分担する現場では、処理水・脱水ケーキの戻し先・搬出先の合意を最初に固めることが、後の運用を左右する。


