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下水道展2026 特別連載|第4回 千曲川決壊と、雪が降る前に — 長野市の下水処理場

下水道展2026 特別連載 想定通りには進まなかった現場の記録
下水道展2026 特別連載

雪国の被災地で、仮設設備を動かし続けた現場

2019年10月、台風19号で千曲川が決壊し、長野市内の下水処理場が水没しました。

地上5メートルほどまで浸水し、地下構造物や水処理設備のほとんどが機能を失った現場です。処理場としての機能が大きく損なわれるなかで、当社は汚泥処理を担当しました。

この現場で特徴的だったのは、長野という雪国の条件を最初から設計に織り込んだことです。仮設設備を置くだけではなく、冬場の運転を見据えて、屋根とシートまで組み込んだ構成で現場を立ち上げました。

長野市の下水処理場は、第3回の仙台市内・多賀城市の現場と同じく、大規模被災地で仮設設備を動かし続けた現場です。被災直後だけでなく、その後の運転継続まで含めて、現場条件に合わせた判断が求められました。

災害現場では、装置を持ち込むだけでは足りません。季節、気候、電源、設置場所、復旧までの期間を読みながら、処理を止めないための組み立てを行う必要があります。

下水道展2026 特別連載

5つの現場でたどる、セイスイ工業の仮設水処理の歩み

ニュースで覚えている方も多い、あの一連の災害

きっかけは、ニュースで覚えている方も多いと思います。台風19号で千曲川の堤防が決壊し、新幹線の車両基地が水没した、あの一連の災害です。市街地一帯が水につかり、屋根しか見えていない映像が、何度も放映されていました。

長野市にあるこの下水処理場も、その災害で大きな被害を受けました。地上5メートルほどまでの浸水で、地下構造物は全滅。水処理設備も、地上のものまで含めてほぼ機能を失っていました。

当社に話が来たのは、災害発生から2週間ほど経ったタイミングです。現地に入ったのが2019年11月3日。同じ日に福島県の別件にも入った後、無理やりその足で長野まで動いた、というのが当時の動きでした。

被災地

「他社の機器は5㎥/h、当社は20〜30㎥/h」というだけの理由

下水処理場としては、1日数千〜数万㎥規模の水処理が必要な現場でした。水処理設備自体の復旧は他社が担当することになり、当社は汚泥処理側を任されました。

声がかかった経緯はシンプルでした。汚泥処理機器として、当時ほかに声がかかった会社の機器は時間あたり5㎥程度。これでは規模に追いつきません。当社は時間あたり20〜30㎥処理できるデカンタ型遠心分離機を保有していたので、依頼が回ってきた、というだけの話です。

組み立てたラインは、ごく標準的なものでした。被災現場では、この「標準を、確実に動かし続けること」がそのまま大仕事になります。

「雪が降る」を最初から織り込む

長野は豪雪地帯です。仮設の設備をそのまま屋外に組み立てただけでは、雪が降った時点で機能しなくなります。

雪対策

そこで最初から、エッジング材で柱と屋根を組み、上にはシートを張って、雪が積もらずに落ちる構造に設計しました。本格的な復旧までには半年以上かかる前提でしたから、その年の冬を越せる設計が出発点になります。

「最初に組んだものを、後から雪対策する」のではなく、「最初から雪まで含めて設計する」。被災現場の仮設プラントでは、こちらのほうが結果として早く、安全に立ち上がります。冬を想定したうえで、配管の凍結対策(電熱線)も、最初から設計に組み込んでおきました。第3回(仙台・多賀城)で書いた「動かし続けるためのオペレーション」が、ここでは「動かし続けるための設計」として現れた、ということでもあります。

喉がやられる現場で、半年以上

硫化水素の影響は人体だけにとどまらず、機器にも及びました。なかでもインバー被災した下水処理場は、たまっていた汚水・汚泥から強い硫化水素が出ていました。マスクをしても、説明や打ち合わせで外す瞬間にやられます。喉がやられる現場で、長時間の作業を続けることになりました。

ター盤の調子が崩れやすく、交換対応が必要になった場面もあります。同種の現場でどう抑え込むかは、当社の中で現在も対策を続けているテーマです。

派手な逸話ではありませんが、こうした条件のなかで何ヶ月も動かし続ける覚悟が、仮設水処理の現場には必要になります。

喉がやられる現場

まとめ — 水処理本体と汚泥処理、それぞれが噛み合うことで現場が回る

長野市の現場で問われたのは、設備を組む技術だけではありませんでした。雪・有害ガス・継続的に流入する汚水。被災して傷んだ施設のなかで、半年以上にわたって安定的に汚泥を処理し続けるオペレーションが、求められたものでした。

水処理本体は他社、汚泥は当社、という分担で、それぞれが噛み合うことで現場が回りました。災害時の復旧では、こうした分担と接続の設計も、機器の話と同じくらい大事になると感じます。

処理の組み立て(参考)

水没した下水処理場の汚泥を、前処理・脱水・冬季対策まで含めて組み立てる

台風被害で水没した下水処理場では、災害由来の大量の砂分・し渣が混入し、強い硫化水素の発生も想定されました。汚泥処理設備だけでなく、雪国の冬季運転を見据えた屋根・シート・凍結対策まで含めて、仮設処理設備を設計しました。

処理対象と装置構成

処理対象

  • ● 台風被害で水没した下水処理場の汚泥
  • ● 1日数千〜数万㎥規模の流入水処理が必要な施設
  • ● 災害由来の大量の砂分・し渣が混入
  • ● 強い硫化水素の発生を想定

採用した装置構成

  • ● し渣除去機:髪の毛・繊維分を除去
  • ● 砂除去機:災害で大量に流れ込んだ砂分を前処理
  • ● デカンタ型遠心分離機:1時間あたり20〜30㎥の処理能力
  • ● 屋根・シート付き仮設架構:エッジング材で柱と屋根を構成し、シート張りで積雪を落とす設計
  • ● 配管の凍結対策:冬季の凍結を想定し、電熱線を設計段階から組み込み

処理フロー

被災汚泥を、し渣除去機と砂除去機で前処理し、デカンタ型遠心分離機で脱水ケーキと処理水に分けます。

被災汚泥 し渣除去機 砂除去機 デカンタ型遠心分離機 脱水ケーキ/処理水

運用条件:全工程を屋根・シート付き仮設架構の中で運用し、積雪・凍結を前提に処理を継続。

被災汚泥処理におけるし渣除去機、砂除去機、デカンタ型遠心分離機の処理フロー図

処理規模・運用条件

デカンタ処理能力 約20〜30㎥/h 1時間あたり
想定稼働期間 半年以上 本設復旧まで
立ち上げ 2週間後 現地調査後、仮設設置
季節対応 屋根・シート 冬季の積雪を最初から設計

設計上のポイント

  1. 1 災害復旧の汚泥処理は、機器の処理能力が初期選定の決定要因になる。連続式のデカンタ型遠心分離機でないと、処理規模に追いつかない場面が多い。
  2. 2 雪・積雪・凍結への対応は、「あとから屋根を被せる」よりも「最初から仮設架構として組み込む」ほうが、工期と安全性の面で有利。配管の凍結対策も最初から組み込む。
  3. 3 硫化水素・有害ガスの発生を前提に、マスク・換気・作業時間の管理を含めた運用設計が必要。
  4. 4 硫化水素はインバーター盤など電気機器にも影響が出ることがある。同種現場では、発生量と接触経路の事前評価、および交換可能な部材手配を視野に入れる。
  5. 5 水処理側と汚泥処理側が分担する現場では、処理水・脱水ケーキの戻し先・搬出先の合意を最初に固めることが、後の運用を左右する。

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