下水道展2026 特別連載|第2回「髪の毛のタタミイワシ」と1ヶ月半 — 千葉市の下水処理場
5つの現場でたどる、セイスイ工業の仮設水処理の歩み
3億で済むはずの仕事が、30億かけても終わらない
工事の背景は、近年の下水処理場で増えつつある統廃合です。当該の下水処理場では、水処理は今までどおり続けるものの、汚泥処理は隣の処理場に送って一括で処理する方針になり、自場の消化槽は撤去することになりました。
対象になった消化槽は、直径20メートル・高さ15メートル。ゼネコンさんが最初に立てた計画は、バキューム処理で中身をすべて外に運び出す、シンプルなものでした。沈殿汚泥は全体量の約3%。「数字としては大したことはない」と見られていました。予算として見込まれていた3〜4億円は、汚泥の引き抜きと外部搬出にかかる費用です。解体工事全体ではありません。
問題は、消化槽が5年ほど使われずに放置されていた点でした。上面のスカム(髪の毛や有機物が層を成して固まったもの)が、完全に乾いてカチカチになっていたのです。吸引できる状態にするためには、中に水を入れて希釈する必要があります。試算してみると、希釈後の総量は当初想定の10倍。バキューム車での外部搬出ベースでは、「30億かけても空にならない」という見積もりが出てきました。
さすがにこのまま続けられない、ということで、ゼネコンさんから当社に相談が入りました。当時の当社にも消化槽撤去の経験はほとんどなく、千葉市・ゼネコン・当社の三者で工法を組み直すところから始めました。


ポンプ 30秒で停止、汚物用ポンプ 3分で停止
当初の見込みは、「クレーンでタンクにポンプを下ろし、1時間で100㎥を吸い上げ完了」。これも、ご多分にもれず、甘い見積りでした。
最初に入れたポンプは、稼働開始から30秒で止まりました。モーターが焼けたかと思って分解すると、羽根や軸の隙間に長い髪の毛がびっしりと絡みついている。機器を復旧させるのに3時間ほど。条件を調整しては再チャレンジ、ということを6回ほど繰り返しましたが、結果はいずれも30秒で停止です。同じ壁に6回挑んで、6回押し返された格好でした。

次に投入したのが、直径150ミリの管を持つ汚物用ポンプ。トイレットペーパーまで吸い込める力のあるポンプです。これなら大丈夫だろうと思ったら、今度は3分で停止。分解すると、長い髪の毛同士が絡み合って結合し、板状の固形物になっていました。
社内では当時、この状態を「髪の毛でできたタタミイワシ」と呼んでいました。次に試したのが汚泥カッターでしたが、これも難航しました。カッターで切るには、汚泥を直径数ミリの穴に通す必要があるのですが、タタミイワシ状の固形物は、その穴に入っていきません。ここでも2週間ほどが無駄に過ぎていきました。
特殊なポンプ、サイクロン、振動ぶるい、グレーチング — 全部試して、全部詰まる
転機になったのは、羽根車を経由せずに気流構造で汚泥を吸い込んで排出するタイプの、特殊なポンプを試した発想でした。これで吸い上げ自体はできるようになりました。
ところが、今度はその後段で詰まります。当初はサイクロン付き振動ふるいを入れていたのですが、髪の毛が絡んで水だけが走り抜けてしまい、ふるいの網もすぐに詰まる。そこで順序を入れ替えて、まずタンクの上にグレーチング(道路際にある鉄の格子蓋)を敷いて粗大なし渣を分離し、後段のサイクロンに通す構成も試しました。それでもグレーチングはすぐに詰まり、サイクロンに渡る前段で頭打ちになります。
何もできないまま1ヶ月が過ぎ、工期3〜4ヶ月のうち最初の1ヶ月半は、「中から泥を抜く」ことだけに費やすことになりました。寝ないで考える日が続いた現場です。
業者仲間の一言で、九州まで「あの機械」を借りに行く
ある日、業者仲間に愚痴をこぼしたら、ぽつりと「九州にそういう処理をやっている会社があるよ」と教えてもらえました。
連絡をつけて、はるばる運び込んだのが、直径1メートル・長さ5メートルの大型トロンメル(円筒に網を巻いた回転式のし渣除去機)です。筒の中に汚泥を通して回転させると、網の穴から水が落ち、髪の毛などの固形分が筒の中に残る。その後段にスクリュープレスを置いて、固形分を脱水ケーキにする。
ようやく処理が前に進み始めました。当時の当社では、し渣除去機という装置の存在自体を、よく分かっていなかったというのが、いま振り返って正直なところです。
装置の構成が定まってからは、運用としてはシンプルなものでした。消化槽から特殊なポンプで吸い上げ、トロンメルでし渣を分離、後段のスクリュープレスで脱水。脱水ケーキ・し渣・砂はコンテナ車で場外搬出し、処理水は既設の設備に戻す、という形で回しています。

数十億が数億で収まり、ゼネコンから「年間賞」
その後段のスクリュープレスでも、想定外の力がチェーンに掛かってフレームが曲がる事故がありましたが、最後まで使い切って完工させています。結果として、約束した工期内に消化槽撤去を完了させ、ゼネコンさんから「年間賞」をいただきました。数十億かかると見込まれていた処理が、結果としては数億円規模で収まった現場でした。やり切ったとは言えても、決して美しい現場ではなかった、というのが正直なところです。
この現場が、いまの「下水処理場のし渣除去機」につながった
この工事をきっかけに、当社では後年「下水処理場のし渣除去機」(代表的な製品例:ロータマット)を導入しています。トロンメルが円筒回転体による汎用的な選別・分級装置であるのに対し、下水処理場のし渣除去機は下水処理場のし渣除去に特化した専用装置で、「捕らえる(スクリーンで分離)/洗浄する/運ぶ/脱水する」の4つの機能が1台に一体化されています。
千葉の現場で、トロンメルで分離した後段にスクリュープレスを別途置いて脱水していた2台構成を、し渣除去機なら1台で完結できる、というのが最大の違いです。当社は現在2台を保有しており、移動式でこの種の処理に対応できることは、当社の特徴のひとつになっています。2019年・2020年の台風・大雨災害で被災した熊本県・長野県の下水処理場でも、このし渣除去機が活躍しました。
この現場での試行錯誤が、結果として今日の当社の標準仕様の土台になりました。

長期停止した消化槽汚泥を、し渣除去・脱水まで組み立てる
長期間使用停止していた消化槽では、汚泥の乾燥・固化や長い髪の毛などのし渣により、通常のポンプや汎用装置だけでは処理が進まないことがあります。この現場では、何度も装置構成を見直しながら、現在の消化槽浚渫に通じる処理の考え方を組み立てていきました。
処理対象
消化槽内の堆積汚泥
- ● 長期間(5年程度)使用停止していた消化槽内の堆積汚泥
- ● し渣、特に長い髪の毛が多く、乾燥・固化してスカム層を形成
- ● 通常の汚物ポンプでは数分で目詰まりし、停止する状態
当時の処理構成と現在の標準構成
当時の処理構成
通常のポンプやふるいでは止まり続けたため、装置を入れ替えながら、詰まりを一つずつ潰していきました。
- ● 吸引通常ポンプは30秒で停止。羽根車を経由しない特殊ポンプに切り替えた
- ● 目詰まりサイクロン付き振動ふるいは、長い髪の毛が絡み処理が進まなかった
- ● 分離グレーチングも詰まったため、最終的に大型トロンメルでし渣を分離した
- ● 脱水トロンメルの後段にスクリュープレスを置き、脱水ケーキ・し渣・砂を搬出した
現在の標準構成
当時の失敗をもとに、吸引・し渣除去・脱水・減容化までを、より安定して処理できる構成に整理しています。
- ● 吸引消化槽内のスラリーは、特殊ポンプで直接吸引する
- ● し渣下水処理場用のし渣除去機で、長い髪の毛などを前処理する
- ● 一体化捕集・洗浄・搬出・脱水までを1台で行える専用装置を使う
- ● 減容化後段でデカンタ型遠心分離機により、固液分離と減容化を行う
処理フロー(現在の標準)
消化槽内のスラリーを特殊なポンプで直接吸引し、下水処理場のし渣除去機で捕集・洗浄・搬出・脱水を行ったうえで、デカンタ型遠心分離機により固液分離・減容化します。
この現場の規模感
設計上のポイント
- 1 長期放置の消化槽は、上面スカムが乾燥して通常ポンプでは突破不能。希釈による総量増加を見込まないと、バキューム外搬では採算が崩壊する。
- 2 「し渣を切る」発想ではなく、「し渣を分離する」発想へ切り替える必要がある。トロンメル系を使う場合は後段に脱水機が別途必要で、下水処理場用のし渣除去機なら1台で捕集から脱水まで完結できる。
- 3 後段のスクリュープレスは、チェーンとフレームの剛性確認を入念に行う。想定外の負荷で構造変形する場合がある。
- 4 現場での装置トラブルは、復旧と再チャレンジを何度も繰り返すうちに時間が大きく飛ぶ。予備機・補修部品の手配は事前に行う。
- 5 場外搬出はコンテナ車での搬出を前提に、経路と頻度を設計する。処理水は既設の戻し先を最初に確保しておく。


