いつも水や土と格闘しているセイスイ工業社員。その毎日を現場の厳しさそのままのハードボイルド・タッチでまとめました。この記事は外部取材チームが現場担当者に取材して作成したものです。第6回のテーマは、沖縄での“黒いプリン”との奮闘記です。
未来に向かって原油タンクを洗おう!

「こんなに気持ちのいいドライブは何年ぶりだろうか」
私は沖縄県南部の道をアメリカ製コンバーチブルで飛ばしていた。車のルーフは青い空、ガードレールはヤシの木だ。地場のレンタカー屋の車が出払っていて、撮影や結婚式に使うこの車しかなかった。目的地は海辺に広がる原油の備蓄基地である。
クライアントの施設には直径100m、高さ30mの巨大タンクが10数基並ぶ。依頼事項はタンク内の堆積油の引き抜きである。
原油は温度が下がると固まってしまう性質をもつ。そのためタンク内で原油に熱を与え続ける攪拌機が稼働していたが、それが故障し、熱が入らなくなった原油はグリースのように固化してしまった。クライアントは再攪拌や再加熱を試みたが溶出できず、セイスイに助けを求めてきたのだ。
消防法の規定で原油タンクは8年に1度、漏れがないか定期検査を受けなければならない。固化した原油スラッジを除去して掃除しなければ、検査が受けられない。いかにしてそのスラッジを引き抜くか・・・
現場に到着して、タンクを見上げる。タンクは一枚の巨大な屋根で覆われているようだ。私はタンクの屋根に上がって点検口から内部を覗いた。

「どでかいプリンだな・・・」
もしもプリン型のようにタンクを屋根ごと上げてポコンと出せるなら、巨大な黒プリンが出現するだろう。しかし屋根を取り外すことはできない。どうやってこのスラッジを引き抜こうか。
私はタンクの屋根を見渡した。
「この穴を使おう!」
屋根には直径20cmほどの穴が100カ所以上開けられていた。それぞれにガイドポールと呼ばれる杭を挿入して屋根を支えている。この穴からスラッジを流動化させる方法が心に浮かんだのだ。よしと、目処をつけて立ち上がって遠くを見た。太平洋の青い水平線が広がっていた。この先にはアメリカ大陸がある。私は清々しい思いでタンクのタラップを降りた。
しかし、すぐには着手できなかった。我々の独自工法は新しい手法であるため、消防署がすぐに許可を出さず、また、クライアントも社内稟議を得るために念入りな審査をしなければならないと言うのだ。無理もない。通常、スラッジはスコップの火花でも発火し、電動機械がショートでもしたら大爆発となる代物だ。硫化水素が発生して作業員の命も危ない。安全性について念には念を入れた確認が行われるのは当然であろう。だが我々の工法は安全で確実だ。しかも低コストで自信がある。
数週間後、ゴーサインが出た。我々は防爆型の機器や安全装備をひっさげて、石油タンク清掃業界の常識を塗り替える工法に着手した。

「土木の地盤改良法であるジェットカッター工法の応用です」
地盤を円形に切って水を噴射攪拌し、柔らかくしていきながらコンクリートを注入、土中に柱を作るのがジェットカッター工法だ。我々はそのエッセンスを頂いて、ガイドポールの穴へ高圧力で水を注入し、高圧洗浄機を回しながら円を切るようにスラッジを軟化させる。水と混じったスラッジは、次第にペースト状になっていくという仕掛けだ。案の定、上に濃い油の塊が浮いて、下の方は濁った水になっていった。
「味噌がお湯の中で浮いているイメージだな」
100カ所ほどの穴でこの作業を繰り返していった。次はこのペースト状の油水を給水管で引き抜き、防爆型の遠心分離機経由でゴミと油分を分け、ゴミを廃棄する。だがここでまた問題が起きた。沖縄では廃棄ができず、九州までこの油水を運搬する必要があるのだ。ゴミ処理費は一体いくらになるのだろう。

「引き抜いた油水が材料になるとは!」

ところがそこに沖縄の“火の神”が現れた。
油水を分析すると、原油と混ぜて石油製品になる「材料」になることがわかったのだ。ゴミは減り、“副産物”となる。まるで魔法のような話だが、隣の原油タンクにパイプで移送するだけで処理費が削減され、製品が生まれ、タンククリーニングも可能となった。
「一攫千金だ!」
と思った時、私の脳裏に石油ブーム時代のシーンが浮かんだ。アメリカの乾いた大地に掘削機を建て、出るか出ないかの一発勝負、祈るようにやぐらを見つめ、やがて吹き出た原油の黒いシャワーを浴びて踊り狂ったあの成長の時代、消費の時代、アメリカンドリームの時代を。
「それから100年後、SDGs(持続可能な開発目標)の時代だ」
あと40年で枯渇する化石エネルギーの消費量を抑えなければならない。
無駄なく使い切り、廃棄物を削減することは、地球の未来をクリーンにする。そういう仕事が我々の生きがいでもある。

我々は「よくやってくれた!」とクライアントからの感謝の声を背中に受けて現場を後にした。帰る前に挨拶に立ち寄ったレンタカー屋でオーナーが例のコンバーチブルを整備していた。
「フラッシングをしていましてね」
と言う。フラッシングとは油でエンジン内部を洗う整備だが、温めた油で原油タンクを洗浄する「COW工法」(COW:Crude Oil Washing, 原油洗浄)と原理は同じであることに改めて気付いた。このCOW工法は洗浄しているうちにオイルが汚れてくるので、その度にオイルを入れ替える必要がある。しかし我々セイスイの防爆型遠心分離機を使えば、遠心分離機がフィルター的な働きをして砂やゴミが除去され、洗浄に使うオイルの再利用が可能になる。さらには、爆発の危険性から通常の電気機材を使えず人海戦術で対応していた作業に防爆型遠心分離機を導入すれば、作業量を圧倒的に減らすことができるはずだ。これらは我々がこうした現場での実績から得ることができたアイデアである。このCOW工法とセイスイ技術のジョイントを普及させるため、現在提案を進めているところだ。
「さあ、未来に向かって原油タンクを洗おう!」
現在、日本には原油備蓄基地が数十箇所あり、それぞれのプラントに多数のタンクが並ぶ。それらのタンクの数だけ、セイスイの技術で低コスト且つ安全にタンク内のスラッジを除去し、さらにその除去したスラッジを原料に変えられる可能性が広がっている。SDGs時代の“石油ビジネス”にもドリームがあるじゃないか。