下水の浄化技術と効率的な下水処理を支える技術
前回の記事では、「日本の下水処理場を支える活性汚泥法」として、日本の代表的な下水処理技術である標準活性汚泥法や膜分離活性汚泥法について詳しく解説しました。
今回は、これらの技術にとどまらず、現代の下水処理で注目されている汚泥の減容化やリサイクル、窒素・リンの高度除去、さらにエネルギー回収技術といった、環境保護と経済効率の両立を実現する技術に焦点を当てます。
セイスイ工業も汚泥の減容化に取り組んでおり、その技術は効率的な処理に貢献していますが、今回は業界全体の代表的な技術がどのように水質改善に役立っているのか、さらに深く掘り下げて見ていきましょう。
日本における下水処理技術
日本における下水処理技術は、環境保護と持続可能な社会を目指して、日々進化を続けています。最新技術の導入により、従来よりも効率的で環境に優しい処理が可能になっています。本セクションでは、こうした日本の下水処理技術の代表例について詳しく解説します。
高度処理法(窒素・リン除去)
高度処理法(窒素・リン除去)は、下水処理で窒素やリンを効率的に除去する技術です。これらの物質は水質汚染や富栄養化の原因となるため、通常の処理に加えて高度な方法が必要です。この技術は、環境保護や水質改善に重要な役割を果たしています。
具体的には、窒素除去は硝化と脱窒のプロセスを経て行われます。まず、硝化菌がアンモニアを硝酸に変え、その後、脱窒菌が硝酸を使って有機物からエネルギーを取り出し窒素ガスに変えて大気中に放出します。リン除去では、物理化学的沈殿法と生物学的リン除去法が使われ、化学薬品や特殊な微生物でリンを沈殿または吸収させて除去します。
この技術は、水質基準が厳しい地域や富栄養化対策が必要な場所で採用されています。利点として、窒素・リンの効果的な除去による水質改善が挙げられますが、プロセスが複雑で運転コストが高く、維持管理が難しい点が課題です。それでも、環境保護において重要な技術として利用されています。
物理化学的リン除去法
物理化学的リン除去法は、化学薬品を使ってリンを不溶性の物質に変え、物理的な方法でその沈殿物を分離・除去する方法です。まず、鉄塩やアルミニウム塩などを加えリン酸塩として沈殿させ、次にろ過や遠心分離で取り除きます。この方法は、化学薬品と物理的な分離技術を組み合わせて高い除去効率を実現しますが、薬品コストや装置管理が課題となります。それでも安定した効果が期待できるため、広く利用されています。
生物学的リン除去法
生物学的リン除去法は、リン蓄積細菌(PAO)の働きを利用してリンを除去する方法です。まず、PAOは酸素のない嫌気槽で体内のリンを放出し、そのエネルギーを使って有機物を取り込みます。次に、酸素がある好気槽に移ると、PAOは取り込んだ有機物からエネルギーを得て、放出した以上のリンを再び体内に取り込みます。このサイクルを繰り返すことで、下水中のリンを効率的に除去します。
急速ろ過法
急速ろ過法は、凝集剤で細かい粒子を凝集させ、砂や砂利をろ材として短時間で大量の水を処理する技術です。凝集によって沈殿しやすくなるため、通常のろ過法よりも処理速度が速く、都市の水道施設や大規模な水処理施設で広く利用されています。
水がろ材層を通過する際に浮遊物が捕捉され、ろ材に蓄積されますが、詰まりが生じると定期的に逆洗を行い、ろ材を洗浄して性能を維持します。
急速ろ過法は、大量の水を短時間で処理できる点が大きな利点ですが、逆洗に必要な水やエネルギー、メンテナンスコストが課題です。それでも、その高効率性から多くの施設で採用されています。
生物膜法(散水ろ床法、回転生物接触法)
生物膜法は、微生物が付着した膜を利用して下水中の有機物を分解する技術です。代表的な方法として「散水ろ床法(トリクリングフィルター)」と「回転生物接触法(回転円板法)」があります。
散水ろ床法では、ろ材に付着した微生物が下水中の有機物を分解します。回転生物接触法では、回転する円板に付着した微生物が、水と空気に交互に触れながら有機物を処理します。
この技術は、エネルギー消費が少なく、維持管理が簡単なため、小規模な下水処理施設で広く利用されています。ただし、負荷の変動や水温の影響を受けやすく、定期的なメンテナンスが必要です。
東芝との業務提携により、2025年初旬からセイスイ工業がレンタルを開始する「Habuki」は、この回転生物接触法をもちいて、オキシデーションディッチ法の前処理することで、コンパクトで低動力ながらも高い処理能力を発揮し、従来のOD法と比較して水処理にかかる時間を短縮することができます。
高速凝集沈殿法
高速凝集沈殿法は、凝集剤を使って水中の微細な不純物を迅速に凝集させ、短時間で沈殿させる水処理技術です。凝集フロックの成長と高い沈降速度を活用することで、従来の沈殿法よりも省スペースで効率的に処理でき、安定した清澄な水を得られます。このため、都市の水道施設や工業用水処理施設などで広く採用されています。
具体的には、凝集剤を投入して撹拌し、不純物をフロックとして凝集させます。フロックは専用の沈殿槽で短時間に沈降し、上澄みの処理水が分離されます。処理速度が速く、効率的に大量の水を処理でき、次の浄化工程へと進みます。
高速凝集沈殿法は、省スペースで運用でき、処理効率が高いという利点がありますが、凝集剤や設備コストが課題となる場合があります。