豪雨時、下水処理場はどこまで持つのか――「想定超え」を前提にした豪雨対策と4つの備え
~自治体職員の45.2%が「年5回以上」の設計想定超過を経験、雨天時運用の71.7%は属人的・ルール未整備~

排水・汚泥処理の専門企業であるセイスイ工業株式会社(本社:千葉県千葉市若葉区、代表取締役:井本謙一)は、仮設水処理プラントのレンタル事業を通じて全国2,650件超の現場を支援してきた知見と、2025年・2026年に自治体職員を対象に実施した2つの独自調査をもとに、豪雨時の下水処理における課題と今後の備え方を整理した提言レポートを公開しました。
近年、短時間強雨の増加により、下水処理場では設計時の想定を超える流入への対応が、より現実的な課題となっています。調査からは、豪雨による処理負荷の増大に加え、現場判断への依存や十分なバックアップ体制の不足といった課題も明らかになりました。本レポートでは、これらの調査結果と国の下水道・防災施策を踏まえ、設備増強だけに頼るのではなく、豪雨時にも必要な下水処理機能を継続・早期回復するために、自治体が平時から備えるべき4つの対策を提言します。
👉 この記事でわかること
- 短時間強雨の増加により、下水処理場で「設計想定超え」が繰り返し発生している実態
- 豪雨対応を支える現場判断への依存と、バックアップ体制に残る課題
- 豪雨時にも処理を継続するために、自治体が平時から備えるべき4つの対策・考え方
目次
豪雨激甚化で変わる、下水処理の前提条件
近年、全国各地で短時間に大量の雨が降るケースが増えています。気象庁の観測では、1時間降水量50mm以上の短時間強雨の年間発生回数は長期的に増加しており、下水道を取り巻く降雨条件そのものが変化しています。
こうした変化を受け、国土交通省も将来の降雨量増加を踏まえた下水道計画への見直しを推進しています。豪雨を発生後に対処する「想定外の事象」とするのではなく、あらかじめ発生を見込んだうえで、施設・運用の両面から処理継続の方法を準備することが重要になっています。
短時間強雨は長期的に増加
気象庁によると、全国のアメダス観測地点における1時間降水量50mm以上の大雨の年間発生回数は、1976~2025年の期間で統計的に有意に増加しています。
最近10年間の2016~2025年では、全国のアメダス1,300地点当たりに換算した年間発生回数は平均約340回でした。統計期間の最初の10年間である1976~1985年の平均約226回と比較すると、約1.5倍です。
さらに、1976~2025年の50年間では、10年当たり27.8回の増加傾向が確認されています。
より強い雨では増加率がさらに大きく、1時間降水量80mm以上は約14回から約25回へ約1.8倍、100mm以上は約2.2回から約4.4回へ約2.0倍となっています。
つまり、問題は単に「雨の日が増えた」ということではありません。短時間に大量の雨水が集中する機会そのものが増えていることが、下水道の雨天時運用を考えるうえで重要な変化となっています。

参考データ
指標 | 1976~1985年平均 | 2016~2025年平均 | 変化 |
|---|---|---|---|
1時間50mm以上 | 約226回/年 | 約340回/年 | 約1.5倍 |
1時間80mm以上 | 約14回/年 | 約25回/年 | 約1.8倍 |
1時間100mm以上 | 約2.2回/年 | 約4.4回/年 | 約2.0倍 |
※全国のアメダス観測値を1,300地点当たりに換算した年間発生回数。
豪雨時に下水処理場へ流入する水量が増える理由
下水道には、汚水と雨水を別々の管渠で排除する「分流式」と、汚水と雨水を同じ管渠で排除する「合流式」があります。
特に合流式下水道では、晴天時には主に汚水が下水処理場へ送られますが、雨天時にはそこへ雨水が加わります。そのため、雨が強くなるほど管渠内を流れる水量が増えます。

国土交通省によると、合流式下水道は、雨天時の流下流量が晴天時の一定倍率以上になると、その量を超えた汚水と雨水の一部が公共用水域へ直接放流される構造となっています。一定量以上の降雨時には未処理下水の一部が放流されることがあり、公衆衛生、水質保全、景観への影響が課題とされています。
したがって、短時間強雨の増加は、単なる浸水リスクだけの問題ではありません。下水道に短時間で流れ込む水量が増え、処理・排水をどこまで継続できるかという運用上の課題にもつながります。
「想定外」ではなく、豪雨を前提にした備えが必要に
短時間強雨の増加を受け、国の下水道政策でも、すでに「過去と同じ降雨条件が今後も続く」ことを前提とした考え方からの転換が進められています。
国土交通省は、気候変動によって将来の降雨量が1.1倍程度増加することが見込まれ、現在の整備水準のままでは浸水に対する安全度が低下することが想定されるとして、雨水管理総合計画の策定・見直しにあたり、気候変動を踏まえた計画とするよう求めています。
具体的には、下水道施設の計画に用いる降雨について、地域ごとの条件に応じた降雨量変化倍率を考慮する考え方が導入されています。また、施設整備だけではなく、既存施設の活用や多様な主体との連携などを組み合わせ、段階的に対策を進めることも示されています。
さらに、国土交通省の「下水道BCP策定マニュアル2025年版」では、自然災害が発生した場合にも、公衆衛生の確保、浸水防除、公共用水域の水質保全など、下水道が担う機能を迅速に確保するための業務継続の考え方が整理されています。
こうした状況を踏まえると、これからの豪雨対策では、
「想定を超えたら現場で対応する」のではなく、「想定を超える状況が起こり得る」ことを前提として、あらかじめ処理継続の方法を準備しておく、という視点が重要になります。

設計時の「想定超え」は、すでに繰り返し発生している
前章で見たように、短時間強雨の発生回数は長期的に増加しています。では、実際の下水処理場では、こうした降雨の変化をどのように受け止めているのでしょうか。
セイスイ工業が2026年6月、全国の下水処理場の運営に携わる自治体職員106名を対象に実施した調査では、約9割が豪雨の頻発による処理場への負荷増大を実感していました。豪雨時の「想定超え」を、その都度対応する一時的な事象として捉えるだけでよいのか。調査結果から、雨天時の処理継続を考えるうえでの課題を見ていきます。
88.7%が豪雨による処理負荷の増大を実感
「近年の気候変動の影響で、ゲリラ豪雨や線状降水帯による集中豪雨の頻度が増え、下水処理場への負荷が大きくなっていると感じているか」と尋ねたところ、「非常にそう思う」が54.7%、「ややそう思う」が34.0%となりました。合わせると、88.7%が豪雨の頻発による下水処理場への負荷増大を実感しています。
45.2%が「年5回以上」の設計想定超過を経験
さらに、過去3年程度に設計時の想定流入量を超える事態が「年10回以上」発生したとの回答は16.0%、「年5~9回程度」は29.2%で、合わせて45.2%が年5回以上の想定超過を経験していました。「年3~4回程度」の22.6%を含めると、年3回以上は67.8%に上ります。

「想定超え」を例外対応として扱い続けてよいのか
調査対象では、設計時の想定を超える流入が年に複数回発生しているケースが確認されました。こうした状況では、「想定を超えたときだけ特別に対応する」という考え方ではなく、想定超過が起こることを前提に、処理継続の方法をあらかじめ検討しておく必要があります。
豪雨対応を支えるのは、いまだ「現場の判断」
設計想定を超える流入が繰り返されるなか、処理を継続するために重要になるのが雨天時の運用体制です。セイスイ工業の調査からは、現在は多くの現場で対応できている一方、運用ルールや判断基準には属人的な部分が残っていることが分かりました。
豪雨への対応を個々の職員の経験や判断だけに頼るのではなく、将来も継続できる仕組みに変えていくことが求められます。
雨天時運用の71.7%が属人的・ルール未整備
雨天時の処理に関する運用ルールについて尋ねたところ、「ある程度のルールはあるが、属人的に運用されている」が54.7%、「ルールはなく、その都度判断している」が17.0%でした。合わせて71.7%に上る一方、「明確なルールが整備されている」は22.6%にとどまります。
豪雨時には流入量や水質が刻々と変化します。こうした状況への対応を個人の経験だけに依存せず、処理切替や緊急対応の判断基準を平時から共有しておくことが重要です。

47.1%で最終判断を現場責任者・担当者に依存
想定を超える流入や水質悪化が発生した際、放流の可否や処理方法の切り替えについて、「現場責任者」が判断するとした回答は35.8%、「現場の当直・担当者個人」は11.3%で、合わせて47.1%でした。一方、「マニュアル・基準に沿って対応」は27.4%です。
現場の知見は不可欠ですが、豪雨が繰り返されるなかでは、判断を特定の職員だけに委ねない仕組みづくりも求められます。
現状対応できても、61.0%が「5年以内に対応困難」と予測
現在の施設・職員・予算で雨天時に「対応できている」とした回答は77.3%でした。しかし、その回答者82名のうち、「3年以内に困難になる」が19.5%、「5年以内に困難になる」が41.5%。合わせて61.0%が5年以内に現在の体制では対応が難しくなると予測しています。
「今は対応できている」ことを前提にするのではなく、現場の判断に依存している部分を洗い出し、将来の豪雨を見据えて運用を標準化する必要があります。

リスク認識84.5%でも、「十分なバックアップ」は19.4%
豪雨への備えでは、流入量の増加への対応だけでなく、設備の停止や処理能力の低下が起きた場合に、処理機能をどう維持するかという視点も欠かせません。
セイスイ工業が2025年10月、下水処理業務に関わる自治体職員103名を対象に実施した調査では、84.5%が災害による下水処理施設の停止をリスクとして認識していました。一方、「十分な」バックアップ体制を整備しているとの回答は19.4%にとどまりました。
過去5年間で約半数が機能停止・処理能力低下を経験
過去5年間に、災害や事故による機能停止・処理能力低下が「複数回発生した」は28.2%、「1回発生した」は20.4%で、合わせて48.6%が実際にトラブルを経験しています。下水処理機能の低下は、想定上のリスクだけではなく、すでに自治体が経験している現実的な課題といえます。
高いリスク認識と、バックアップ整備のギャップ
一方、災害時の代替処理施設やバックアップ体制について、「十分に整備されている」は19.4%。「部分的に整備」が35.9%、「整備を計画中」が24.3%でした。
リスク認識84.5%に対し、十分な備えは19.4%。リスクを把握することと、実際に処理を継続できる体制を確保することの間には、大きな隔たりがあります。

復旧長期化・影響評価まで見据えたBCPが必要
施設停止から復旧まで「1週間程度」を想定する回答は26.2%、「2週間以上」は11.7%で、合わせて37.9%が1週間以上の長期化を見込んでいます。
また、停止時の住民生活への影響について、影響評価を「実施予定」が12.6%、「実施していない」が15.5%でした。


国土交通省の「下水道BCP策定マニュアル2025年版」でも、災害時のリソース制約を前提に、下水道機能の継続・早期回復を図ることがBCPの目的とされています。
施設を止めない対策だけでなく、止まった場合にどの機能を、どの手段で、どこまで継続するのかまで事前に設計することが重要です。
豪雨時にも「処理を止めない」ために、平時から何を備えるべきか
これまでの調査から、豪雨時の下水処理には、「設計想定を超える流入」「現場判断への依存」「バックアップ体制の不足」という課題が見えてきました。
重要なのは、豪雨が発生してから対応策を探すのではなく、既存設備の能力を超える事態も想定し、必要な下水処理機能を継続・早期回復する方法を平時から設計しておくことです。セイスイ工業では、調査結果を踏まえ、次の4つの備えを提言します。
提言①② 運用ルールと住民影響への対応を事前に決める
提言1は、雨天時の判断基準の標準化・文書化です。
2026年調査では、雨天時運用の71.7%が属人的またはルール未整備でした。流入量や水質が一定の基準を超えた場合に、誰が処理切替・放流・外部支援要請を判断するのかを平時から明確にしておく必要があります。
提言2は、処理能力低下や越流による住民・周辺環境への影響を事前に想定することです。
同調査では「越流時の通報基準や情報公開ルールが曖昧」との回答が41.5%ありました。影響範囲を想定したうえで、「いつ・誰に・何を知らせるか」までBCPに組み込むことを提言します。
提言③ 「平時に持たない処理能力」を平時から確保する
提言3は、常設設備だけでなく、必要時に外部から追加できる処理能力までBCPに組み込むことです。
これは常設設備を仮設設備に置き換えるという意味ではありません。常設設備による備えを基本としながら、それだけでは確保しにくい一時的・緊急時の処理能力について、仮設水処理や可搬式設備、専門事業者、広域支援などで補完できる状態を平時からつくっておくという考え方です。
2025年調査では87.4%が仮設水処理プラントを災害時の処理継続に「有効」と評価し、2026年調査では82.1%が雨天時の処理能力増強や緊急対応で専門事業者の活用に前向きでした。

国土交通省の「下水道BCP策定マニュアル2025年版」でも、復旧に必要な仮設ポンプや可搬式水処理施設等の確保に向けた民間企業との協定や、平時からの連携・受援体制の構築が示されています。
設備そのものを所有しているかだけでなく、必要処理量、設置場所、電源、配管接続、搬入経路、支援要請先まで事前に確認し、「平時に持たない処理能力」を必要時に使える状態にしておくことを提言します。

提言④ 1週間以上の復旧も想定してBCPを見直す
提言4は、初動対応だけでなく、復旧の長期化まで想定してBCPを見直すことです。
2025年調査では、施設停止から復旧まで「1週間程度」を想定する回答が26.2%、「2週間以上」が11.7%で、計37.9%が1週間以上の長期化を見込んでいます。
数時間から数日の応急対応だけでなく、処理機能の低下が長期化した場合を想定し、人員、電源・燃料、薬品、資機材、外部支援体制をどこまで維持できるかを平時から確認しておく必要があります。
豪雨時の処理継続力を高めるために必要なのは、「想定を超えない設備」を目指すことだけではありません。想定を超えた場合にも、必要な下水処理機能を可能な限り継続・早期回復できる方法を、平時から準備しておくことが重要です。
井本 謙一
セイスイ工業株式会社 代表取締役水処理業界に長年携わり、仮設水処理設備の提案・運用支援・現場対応を統括。浄水場、下水処理場、工場排水処理、汚泥処理など幅広い案件に関わる。本記事では技術内容および業界情報の監修を担当。
創立 水処理専門企業
達成 豊富な現場経験
代表就任 業績好調



