セイスイ工業株式会社

水処理コラム

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レポート

下水処理場の設備更新は「止めない」を前提に――自治体調査から見えた更新制約と代替処理設計への提言

~87.0%が「処理を止められない」制約に直面・直面見込み、76.0%がメンテナンス時の堆積物「想定超え」を経験~

老朽化と無停止の板挟み — 下水処理現場の「綱渡り」実態と、更新期を乗り切るための提言

排水・汚泥処理の専門企業であるセイスイ工業株式会社(本社:千葉県千葉市若葉区、代表取締役:井本謙一)は、仮設水処理プラントのレンタル事業を通じて全国2,650件超の現場を支援してきた知見と、2026年2月・5月に自治体職員を対象に実施した2つの独自調査をもとに、老朽化が進む下水処理場で「処理を継続しながら更新・メンテナンスする」という構造的な課題と、その対応策を整理した提言レポートを公開しました。

全国の下水処理場では、標準耐用年数を経過した機械・電気設備が増える一方、下水処理は更新やメンテナンスのために簡単に停止できるものではありません。当社調査からも、設備の故障・不具合や処理能力低下が広く経験されているほか、設備更新時に「処理を止められない」という制約に直面した、または今後直面すると考える自治体職員が87.0%に上るなど、老朽化と処理継続の両立が現場の課題となっています。本レポートでは、これらの調査結果と国の下水道政策を踏まえ、「処理を継続しながら更新する」ことを計画の前提とし、想定超過への備え、複数の代替処理手段の組み合わせ、メンテナンスBCPの整備を含む4つの取り組みを提言します。


👉 この記事でわかること

  • 全国の下水処理場で進む設備老朽化と、故障・処理能力低下がすでに顕在化している実態
  • 設備更新やメンテナンス時に「処理を止められない」ことで生じる更新制約と、現場で取られている対応
  • 「貯留・搬出・仮設処理」などを組み合わせ、処理を継続しながら設備更新を進めるための考え方と4つの提言

目次

更新期を迎える下水処理場――老朽化は「待ってくれない」

下水処理場では、日々の処理を継続する一方で、長年稼働してきた機械・電気設備の更新期が迫っています。国の統計と自治体職員への調査を重ねると、設備の老朽化は将来の課題ではなく、すでに故障や処理能力低下として現場に表れていることが分かります。

全国の下水処理場の約95%で、標準耐用年数を経過した機械・電気設備

国土交通省によると、令和5年度末時点で全国に約2,200か所ある下水処理場のうち、約2,100か所(約95%)で、標準耐用年数15年を経過した機械・電気設備を有しています。

国も「持続的な下水道機能確保のため、計画的な維持管理・改築事業の実施が必要」としており、処理場設備の更新は全国共通の課題となっています。

全国の下水処理場の約95%で、標準耐用年数を経過した機械・電気設備

現場でも10年以上のし渣処理設備が58.0%

セイスイ工業が2026年5月に自治体職員100名を対象に実施した調査では、担当するし渣処理設備の導入から「10年以上~15年未満」が24.0%、「15年以上~20年未満」が10.0%、「20年以上」が24.0%でした。合わせて58.0%が導入から10年以上であり、そのうち24.0%は20年以上使用されています。

85.0%が故障・不具合・処理能力低下を経験

設備の経過年数だけでなく、実際の運用にも影響が表れています。同調査では、し渣処理設備の故障・不具合・処理能力低下を「何度も経験」が32.0%、「数回経験」が43.0%、「一度だけ経験」が10.0%。合わせて85.0%が何らかのトラブルを経験していました。

設備更新は「いつか必要になるもの」ではありません。老朽化と不具合がすでに顕在化するなか、処理機能を維持しながら、いつ・どのように設備を更新するかが現場の課題となっています。

85.0%が故障・不具合・処理能力低下を経験

設備を止めるメンテナンスは、すでに「綱渡り」

老朽設備の更新やメンテナンスが必要になっても、その間の汚泥処理まで止められるとは限りません。2026年2月に実施した消化槽調査からは、事前に計画していても、停止期間中の処理を余裕なくつないでいる現場の実態が見えてきました。

消化槽メンテナンスで生じる綱渡り

約6割が停止期間中に「余裕なし・想定外・処理滞り」を経験

過去3年以内に消化槽メンテナンスに伴う汚泥処理対応を経験した75名に、停止期間中の状況を尋ねたところ、「計画通りに進んだが余裕はなかった」が42.7%、「想定外のことが起き、綱渡りの対応だった」が12.0%、「対応が追いつかず、一部処理が滞った」が4.0%でした。合わせて58.7%が、余裕のない状態や想定外の事態、処理の滞りを経験しています。計画を立てていても、処理能力に十分な余力を確保できるとは限らないことが分かります。

約6割が停止期間中に「余裕なし・想定外・処理滞り」を経験

76.0%で、開けてみると堆積物が「想定超え」

さらに同じ75名のうち、消化槽を開放した際のスカムや砂などの堆積物量が「想定を大きく超えていた」が28.0%、「やや超えていた」が48.0%となり、76.0%が事前想定を上回る堆積物を経験しています。

設備内部の状態は、停止・開放して初めて正確に把握できる場合があります。更新・メンテナンス計画には、「開けてみなければ分からない」不確実性をあらかじめ織り込む視点が必要です。

開けてみると堆積物が「想定超え」

最大の負担は「汚泥をためる場所の不足」45.5%

停止期間中に余裕のない対応等を経験した44名では、最大の負担として「汚泥をためておく場所が不足した」が45.5%で最多でした。次いで「堆積物が想定より多く、工期が延びた」「委託先や搬出先の確保に奔走した」が各18.2%でした。設備を止めれば、その間にも発生する汚泥を「どこに逃がし、どのように処理するか」という新たな課題が生じます。

最大の負担は「汚泥をためる場所の不足」45.5%

87.0%が直面する「処理を止められない」という更新制約

消化槽調査では停止時の余裕のなさが明らかになりました。一方、し渣処理設備を対象とした2026年5月調査では、さらに根本的な問題として、更新したくても処理機能を簡単には止められないという制約が浮かび上がっています。

更新期の板挟み

設備更新時の87.0%が「止められない」制約に直面・直面見込み

自治体職員100名に尋ねたところ、し渣処理設備の更新・大規模修繕で「処理を止められない」制約に「直面したことがある」が43.0%、「今後直面すると思う」が44.0%で、合わせて87.0%でした。

本レポートでは、老朽設備を更新する必要がありながら、その設備が担う処理機能を簡単には停止できない状態を「更新制約」と捉えます。

設備更新時の87.0%が「止められない」制約に直面・直面見込み

現場では工程分割・仮設設備・夜間工事で処理をつないでいる

実際に制約へ直面した43名では、「工程を分割して段階的に施工」が60.5%、「仮設設備による一時的な処理継続」が48.8%、「夜間や短時間で工事」が41.9%、「他系列・他施設で処理を補完」が27.9%でした。

つまり、「処理を止められない」は抽象的な懸念ではありません。現場ではすでに、工程・時間・設備・他系列を組み合わせながら処理をつないでいるのが実態です。

現場では工程分割・仮設設備・夜間工事で処理をつないでいる

「止められない」が更新そのものの先送りにもつながる

同じ43名のうち、25.6%は更新・修繕そのものを先送りしたと回答しています。さらに100名全体では、更新・大規模修繕の障壁として「仮設対応コスト」52.0%、「予算確保」42.0%、「工事期間中の処理継続」40.0%、「仮設スペース」37.0%などが挙がりました。

老朽化しているから更新したい。しかし、処理を止められないから更新しにくい。 この板挟みをどう解消するかが、更新期を迎える下水処理場の重要な課題です。

更新・大規模修繕の障壁

更新期を乗り切るには「代替処理」をどう設計するか

「処理を止められない」以上、更新計画には、停止する設備の機能をその期間だけ別の方法で補う設計が必要になります。実際の現場でも、一つの方法だけではなく、施設条件に応じて複数の代替手段が使われています。

現場ではすでに複数の代替手段を使い分けている

消化槽メンテナンス経験者75名では、停止中の代替手段として「他の消化槽への負荷振り分け」と「外部処理業者への搬出」が各44.0%、「貯留槽等への一時貯留」が37.3%、「仮設汚泥処理設備」が24.0%でした。

これは、現場条件によって「分散する」「運ぶ」「貯める」「場内で処理する」を使い分ける必要があることを示しています。

「貯留・搬出・場内処理」を組み合わせるハイブリッド代替設計

セイスイ工業では、一つの代替手段に依存するのではなく、

貯留する × 外部へ搬出する × 場内で仮設処理する × 他系列・他施設へ分散する

という複数の選択肢を、処理量・期間・スペース・搬出能力などに応じて組み合わせる「ハイブリッド代替処理」を、更新計画の段階から検討することが重要だと考えます。

特に、停止時の最大負担が「貯留場所不足」45.5%だったことを踏まえると、「とりあえず貯める」だけに依存しない設計が必要です。

ハイブリッド代替設計

仮設設備への関心80.4%、期待は「処理能力の補完」

仮設汚泥処理設備への関心は80.4%に上り、関心層82名が期待する機能では「停止期間中の処理能力低下を補える」53.7%が最多でした。次いで「外部搬出に頼らず場内で完結」48.8%、「危険作業を減らせる」42.7%でした。

仮設設備を唯一の解決策とするのではなく、複数ある代替処理手段の一つとして、必要な処理能力を補完するという位置付けが重要です。

「止めない更新」を下水処理場の標準設計へ

国土交通省も、老朽化が進む下水道施設について、長期的な視点から優先順位を設定し、計画的な維持管理・改築を進めるストックマネジメントを推進しています。限られた財源・人的資源の中で事業の優先度を定める「事業マネジメント」の考え方も示されています。

そのうえでセイスイ工業は、設備更新計画に「工事期間中も必要な処理機能をどう維持するか」まで組み込むことを提言します。

「止めない更新」を下水処理場の標準設計へ4つの提言

提言①② 「処理継続」と「想定超え」を更新計画の前提にする

提言1は、処理継続方法を更新計画と同時に設計することです。

87.0%が「処理を止められない」制約に直面・直面見込みである以上、「設備をいつ更新するか」だけでなく、停止期間中に失われる処理能力を、何によって補うかまでを計画初期から決めておく必要があります。

提言2は、「想定超え」を前提に余力を持たせることです。

堆積物の想定超過を76.0%が経験していることから、汚泥量、処理能力、貯留容量、搬出台数、工期などを一点の想定値だけで設計せず、変動時にも処理を継続できるバッファを確保することを提言します。

提言③ 「貯留・搬出・仮設処理」のハイブリッド化

停止時の代替処理は、単一の設備や方法だけに依存しないことが重要です。

貯留+外部搬出+場内仮設処理+他系列への負荷移行を組み合わせ、「通常時」「想定超過時」「長期化時」など複数のシナリオに対応できる処理計画を平時から準備することを提言します。

これにより、一つの手段が容量・スペース・搬出先などの制約を受けた場合にも、別の手段へ切り替えられる余地を持たせます。

提言④ メンテナンスBCPを標準装備にする

消化槽メンテナンス時の代替処理手段や緊急時対応について、BCP・バックアップ計画を「策定している」と回答したのは40.2%でした。一方で39.2%は「策定を検討中」です。

セイスイ工業では、設備停止時に失われる処理能力、代替処理方法、仮設設備の設置場所、電源・配管、搬出先、対応事業者、想定超過時の追加対応までを事前に整理した、「更新・メンテナンスのためのBCP」を平時から備えることを提言します。

老朽化そのものを避けることはできません。しかし、「止められないから更新できない」のではなく、「止めずに更新する方法を先に設計する」ことはできます。 更新期を迎える下水処理場では、処理継続まで含めた更新計画を標準化することが、安定した下水処理機能を維持する鍵になります。

この記事の監修者

井本 謙一

セイスイ工業株式会社 代表取締役

水処理業界に長年携わり、仮設水処理設備の提案・運用支援・現場対応を統括。浄水場、下水処理場、工場排水処理、汚泥処理など幅広い案件に関わる。本記事では技術内容および業界情報の監修を担当。

1974年
創立
水処理専門企業
2,650件
達成
豊富な現場経験
2009年
代表就任
業績好調

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下水処理場におけるし渣処理の実態と課題に関する調査

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