排水のpH基準値とは?法規制・現場管理・トラブル防止のポイントをわかりやすく解説
排水処理や設備管理に携わっていると、「pHが基準値から外れた」「pHの戻りが悪い」という課題に必ず直面します。
pHは排水の状態をもっとも端的に示す指標であり、基準値(5.0〜9.0)を外れると法規制・設備トラブル・処理不良が一気に発生しやすくなるため、日々の管理が欠かせません。
前の記事で触れた「硫酸による腐食」も、実はpH管理ができていない現場で起きやすい問題です。だからこそ、pHを正しく測り、基準値に保つことが排水管理の基本となります。
本記事では、pHに関して、現場でそのまま使える形でわかりやすく解説していきす。
👉 この記事でわかること
- 排水の pH 基準値はなぜ5.0〜9.0なのか
- pH が外れると現場で何が起きるのか
- pH を安定させるための方法
排水管理における「pH」の基本
pHとは?(水素イオン濃度と酸・アルカリの指標)
pHとは、水の中にどれだけ水素イオン(H⁺)があるかを示す指標で、液性(酸性・中性・アルカリ性)を判断するための基本単位です。
- pHが小さいほど酸性(H⁺が多い)
- pH7=中性
- pHが大きいほどアルカリ性(H⁺が少ない)
排水の化学反応、設備腐食、薬剤の効き方など、多くの現象は pH に強く影響されます。
つまり、pHは「見えない水質の変化」を数値としてつかむための最もシンプルで強力な指標と言えます。

なぜ排水管理でpHが重要なのか(腐食・薬剤反応・設備保全)
pHは単なる数値ではなく、設備の寿命・処理性能・法令遵守を左右する核心指標です。基準値から外れると、現場では次のような問題が起こります。

- 設備腐食が急激に進む
酸性化するとコンクリートや金属の腐食が一気に加速(硫酸腐食と同様の仕組み) - 薬剤(凝集剤・中和剤・消毒剤)が効かなくなる
凝集剤・中和剤・消毒剤は適正pHで最大効果を発揮するため、pHずれは処理効率を低下 - 処理性能の低下・排水基準超過のリスク
pH異常は微生物処理に悪影響を与え、排水基準超過につながることも
排水に適用されるpH基準値(法規制)
排水のpHは、環境保全・設備保護のために法的基準が明確に定められています。ここでは代表的な規制と、その背景を要点で解説します。
排水基準値(環境省):5.0〜9.0の意味と背景
一般的な排水基準値は、河川放流であれば5.8〜8.6、海域への放流や下水道への放流では5.0〜9.0と定められています。
これは自然水域が持つ中性に近い状態を保ち、生態系に過度な負荷を与えないために設定されています。
酸性に傾けば水生生物が弱り、アルカリ性が強すぎれば粘膜が損傷します。基準値は、環境保護と事業活動の両立を考えた「許容できる範囲」と言えます。
特定施設・業種別に異なる規制(工場排水・下水道放流など)
pH 規制は一律ではなく、排水先・業種で変わります。
工場排水は業種ごとの基準を適用、下水道放流では自治体条例が適用され、多くはpH5.0〜9.0とやや幅が広い一方、下水道設備を損傷しないことが重視されます。
つまり、自社の排水ルートに合った基準を把握して運用することが不可欠です。
基準逸脱で起こるリスク(行政指導・処理不良・事故)
pH基準値は「守る数字」ではなく、事故・腐食・環境負荷を防ぐための最低ラインです。この基準を外れると、次のようなリスクが発生します。
- 行政指導や改善命令、場合によっては操業停止
- 下水道や施設の腐食事故、損害賠償リスク
- 現場では、配管腐食・薬剤が効かない・生物処理の停止など、設備トラブルの連鎖

pH異常が現場にもたらす影響
pHは排水品質だけでなく、設備の寿命や処理プロセスの安定性にも直結します。基準から外れた状態が続くと、現場ではさまざまなトラブルが連鎖的に発生します。
酸性化による腐食(コンクリート・金属劣化)

排水が酸性に傾くと、コンクリートの溶解や金属の腐食加速が起きやすくなります。特に硫酸の生成が絡む環境では劣化速度が一気に上がり、マンホール・配管・槽などで損傷が進行します。酸性化は設備寿命を縮める代表的な要因で、前記事の「硫酸と腐食リスク」と非常に関係の深い現象です。
アルカリ性の上昇による沈殿・固着トラブル

一方でpHが高すぎる場合は、カルシウムやマグネシウム塩が沈殿しやすくなり、固着や詰まりを引き起こします。 配管内壁へのスケール付着、散気管やポンプの性能低下、調整槽での沈殿物堆積など、流量不安定や設備停止につながるトラブルが多く、酸性側とは別の形で現場を圧迫します。
排水処理プロセスへの影響(微生物活性・薬注効率)

pHは、生物処理や薬剤処理の効き方に直結する重要因子です。 微生物処理では、pHが外れると微生物の活性が急低下し、BOD除去効率が悪化します。 凝集・中和など薬剤処理では、pHによって薬剤反応性が大きく変化し、必要量が増える・効果が出ないといった問題が発生します。 結果として、処理水質の悪化、薬剤コスト増、設備負荷の増大など、運転全体に不安定さが広がります。
pH異常を引き起こすよくある原因
pHが基準から外れる背景には、原水の変動・運転条件・設備要因が複合的に絡むことが多くあります。ここでは、現場で特に頻発する3つの要因をまとめます。
高負荷排水・原水変動・季節変動
原水側の変化は、pH異常の最も一般的な原因です。原水の変動を正しく把握できていないと、pHトラブルは繰り返し発生しやすくなります。
- 食品工場などでは高負荷排水が急に入り、pHが大きく振れやすい
- 製造切替・洗浄工程でpH値が急変
- 季節で微生物活性が変わり、分解プロセスが変化し、じわじわpHがズレる

薬注量の過不足・中和反応の不安定化

中和工程がある現場では、薬注のコントロール不良がpH異常の直接原因になります。
- 薬注しすぎてpHが行き過ぎる(オーバーシュート)
- 薬注不足で酸性/アルカリ性がそのまま流入
- 希釈ミス、薬剤濃度変動、反応時間不足
こうした中和の不安定さは、処理水の品質だけでなく、薬剤コストや設備負荷にも影響し、現場の運転を不安定にします。
設備トラブル(撹拌不足・センサー異常)
運転条件を整えていても、設備側の問題でpHがずれることも多くあります。
- 撹拌不足で薬剤が均一に混ざらず「pHムラ」が発生
- pHセンサーの汚れ・劣化・校正不足で測定値がズレる
- ポンプ故障や流量変動で中和バランスが崩れる
設備トラブルは予期せぬpH変動を生みやすく、定期点検・校正が欠かせない理由はここにあります。

pHを安定させるための管理方法
pHは「測る→調整→監視」のサイクルが整うことで安定します。ここでは、現場で特に効果の高い3つの管理方法をまとめます。
中和(酸・アルカリ)による直接調整のポイント
中和は最も一般的な方法ですが、入れれば安定するものではなく、調整精度が命です。
- 少量注入で段階的に調整し、オーバーシュートを防ぐ
- 十分な撹拌で濃度ムラをなくす
- 反応時間を確保し、調整不足を防止
緩衝剤・薬注制御の最適化
原水の変動が大きい現場では、単純な中和だけではpHが安定しにくくなります。そこで重要になるのが緩衝作用の活用と薬注制御の精度向上です。
まず、炭酸ガスや水酸化マグネシウムのように、入れすぎてもpHが極端に振れにくい緩衝作用を持つ中和剤へ切り替え、または原水のアルカリ度を保つことで、急激なpH変動を防げます。
加えて、以下の工夫が安定化に有効です。
- 薬注ポンプを自動制御化し、原水変動に応じて微調整
- 薬注位置・混合点の見直しで反応効率を改善
「薬剤を増やす」より「制御精度を上げる」ほうが、pHは安定しやすくなります。
pHモニタリングと自動制御
pHを安定させる核心はリアルタイム監視です。変動が大きい現場ほど、自動制御が有効です。
- pH計で常時監視し、異常を早期発見
- 自動制御(フィードバック制御)で薬注量を自動調整
- 記録データから原因分析が容易に

まとめ:pH管理は「基準値を守る」だけでなく現場を安定させる重要ポイント
pHは、排水処理の安全性・設備寿命・法令遵守のすべてに直結する基礎指標です。本記事で整理したとおり、pHが基準値(5.0〜9.0)から外れると、腐食・薬剤不良・処理性能低下といったトラブルが連鎖的に起きやすくなります。
この記事の要点は次の3つです。
- pH基準値は「環境と設備を守るための最低ライン」であり、逸脱は即トラブルにつながる
- pH異常は原水変動・薬注不良・設備トラブルの複合要因で起こる
- 中和・緩衝・モニタリングを組み合わせた管理が、安定運転の最も効果的な方法
日々のpHチェックと、小さな変化への早い気づきが、重大トラブルや基準超過を防ぐ最も確実な手段です。
「pHの変動原因がつかめない」「もっと安定させたい」と感じたら、次の記事では、pH測定器について解説しますので、こちらも参考にしてみてください。現場に合った計測・管理の精度が、運転の安定化につながります。
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