【第2回】深海6,000mの泥を「運べる資源」に変えるには
2026年1月、深海6,000mから始まる揚泥試験を前に

第2回タイトル画像:深海から揚がる泥水と船上減容化
第1回では、南鳥島レアアース泥がなぜ注目されているのかを整理しました。
南鳥島周辺の深海底には、ジスプロシウムやテルビウムなどの重レアアースを含む泥状の堆積物が存在するとされています。レアアースは、EV、風力発電、電子部品、防衛関連装備など、現代産業を支える重要な素材です。
しかし、南鳥島のレアアース泥は、陸上鉱山の鉱石とはまったく性質が異なります。そこにあるのは、硬い鉱石の塊ではなく、海底に堆積した泥です。深海から揚がってくるのは、海水、粘土、微細粒子、有用成分が混ざったスラリーです。
そのため、商業化を考えるうえで最初に直面するのは、「採る」ことだけではありません。
むしろ大きな問題は、採ったものをどう運ぶかです。
第2回では、南鳥島レアアース泥の商業化を阻む「運ぶ」という問題を整理します。そして、船上選鉱や減容化という考え方が、なぜ経済性と環境性の両方に関わるのかを見ていきます。
1,900km先、深海6,000mという条件
南鳥島は東京から約1,900km離れた太平洋上にあります。対象となるレアアース泥は、その周辺の水深5,500〜6,000mほどの海底にあります。
この条件は、陸上の鉱山とはまったく異なります。陸上であれば、重機を入れて鉱石を掘り出し、トラックやベルトコンベアで運ぶことができます。しかし、南鳥島周辺ではそうはいきません。
深海から泥を揚げるには、海上の船から長いパイプを下ろし、泥と海水が混ざったスラリーを吸い上げる必要があります。
水深6,000mという距離は、単に「深い」というだけではありません。圧力、流量、管内の摩耗、エネルギー消費、作業時間、船の安定性など、あらゆる条件が難しくなります。
加えて、洋上作業は天候や海象に大きく左右されます。陸上プラントなら予定通りに動かせる作業も、海上では波、風、台風、潮流の影響を受けます。作業できる日が限られる以上、装置には高い稼働率と安定性が求められます。
短い作業可能時間の中で、どれだけ効率よく処理できるか。これが、海洋資源開発の実務上の大きな論点になります。

図3:深海6,000mからの揚泥プロセス
南鳥島の海底に何があるのか
舞台となるのは、日本の最東端に位置する南鳥島です。東京から約1,900km離れた太平洋上の島で、その周辺の水深5,500〜6,000mほどの海底に、レアアースを含む泥状の堆積物が広がっているとされています。
これが「レアアース泥」と呼ばれるものです。

図4:船上選鉱と減容化の処理フロー
減容化は、その後の工程にも効いてくる
もちろん、船上で減容化できれば、それだけで商業化が完了するわけではありません。
持ち帰った濃縮物からレアアースを抽出し、分離・精製し、産業材料として使える形にする工程が必要です。さらに、残渣や排水の処理、輸送、保管、品質管理、サプライチェーン構築も続きます。
しかし、だからこそ泥水処理は重要です。
船上でどこまで水分や不要な細粒分を減らせるかによって、輸送量だけでなく、陸上側の処理設備、精製工程、廃棄物処理の負担も変わります。入口の処理が小さく見えても、全体のコスト構造には大きく効いてきます。
この点を考えると、南鳥島レアアース泥の議論では、採鉱技術だけを切り出して考えるのではなく、採取、船上処理、輸送、抽出、分離・精製、廃棄物処理までを一連の流れとして見る必要があります。
経済性と環境性は切り離せない
船上選鉱・減容化は、単にコストを下げるための技術ではありません。海に戻す水や微細粒子の扱いをどう設計するかという、環境工学上のテーマでもあります。
確認すべき項目は多岐にわたります。
濁度、粒度分布、金属成分、栄養塩、戻す水深や海域、拡散の仕方、周辺生態系への影響。
これらを事前に評価し、運用時にもモニタリングする仕組みが必要です。
経済性だけを優先して環境影響を軽視すれば、社会的な理解は得られません。一方で、環境性だけを考えて輸送効率を無視すれば、事業として成立しません。
つまり、南鳥島レアアース泥の商業化では、経済性と環境性を同じ設計テーブルに載せる必要があります。
どの粒径で分けるのか。どの程度まで濃縮するのか。どの成分を海に戻してよいのか。どのように監視するのか。
これらはすべて、泥水処理の実務と直結しています。

図5:経済性と環境性の両立イメージ
第2回のまとめ
南鳥島レアアース泥の商業化を考えるうえで、「運ぶ」という問題は避けて通れません。
南鳥島は東京から約1,900km離れています。対象となる泥は水深5,500〜6,000mほどの深海底にあります。そして、揚がってくるのは鉱石ではなく、水と粘土を多く含む泥水です。
この泥水をそのまま運べば、資源よりも水と粘土を運ぶことになり、輸送効率は大きく下がります。だからこそ、船上で分ける、濃縮する、不要分を減らすという考え方が重要になります。
ただし、船上選鉱・減容化は単なるコスト削減策ではありません。海へ戻す水の品質をどう管理するかという環境工学の問題でもあります。
どの粒径で分けるのか。どの程度まで濃縮するのか。どの成分を海に戻してよいのか。どのように監視するのか。
これらはすべて、泥水処理の実務と直結しています。
次回は、船上で泥をどう分けるのかという技術論に入ります。既往研究で示されている20μm前後の分級、サイクロン分級、そしてセイスイ工業が検討し得るデカンタ型遠心分離機の可能性について整理します。
参考文献・出典
- 加藤泰浩(2012)『太平洋のレアアース泥が日本を救う』PHP新書
- Takaya, Y. et al. (2018) “The tremendous potential of deep-sea mud as a source of rare-earth elements,” Scientific Reports, 8, 5763.
- Kato, Y. et al. (2011) “Deep-sea mud in the Pacific Ocean as a potential resource for rare-earth elements,” Nature Geoscience, 4, 535–539.
- 内閣府 科学技術・イノベーション推進事務局:SIP第3期「海洋安全保障プラットフォームの構築」関連資料
- 国立研究開発法人 海洋研究開発機構(JAMSTEC):地球深部探査船「ちきゅう」および南鳥島周辺海域におけるレアアース泥関連情報


