セイスイ工業株式会社

水処理コラム

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レポート

【第3回】船上で泥をさばく技術が、海洋資源開発を左右する

20μm分級、デカンタ型遠心分離機、戻し水管理という実務

船上のデカンタ型遠心分離機で泥水スラリーを処理し、粗粒側と細粒側に分ける技術イメージq

第3回タイトル画像:20μm分級とデカンタ型遠心分離機の技術イメージ

第2回では、南鳥島レアアース泥の商業化を考えるうえで、「運ぶ」という問題が大きな壁になることを整理しました。

南鳥島は東京から約1,900km離れています。対象となる泥は水深5,500〜6,000mほどの海底にあります。そして、揚がってくるのは鉱石ではなく、海水、粘土、微細粒子、有用成分が混ざった泥水です。

この泥水をそのまま陸上まで運べば、資源を運ぶというより、水と粘土を大量に運ぶことになります。だからこそ、船上で分ける、濃縮する、不要分を減らすという考え方が重要になります。

では、実際に船上で泥をどう分けるのか。

第3回では、南鳥島レアアース泥の船上処理を考えるうえで重要になる「20μm前後」という粒径、既往研究で示されているサイクロン分級、そしてセイスイ工業が検討し得るデカンタ型遠心分離機の可能性について見ていきます。

鍵になるのは「20μm前後」という境界

南鳥島レアアース泥を船上で効率よく処理するうえで、重要な手がかりになるのが粒径です。

Takaya et al.(2018, Scientific Reports)の研究では、レアアースが泥全体に均一に分布するのではなく、比較的粗い粒子側に偏って含まれる傾向が示されています。議論の起点となるのが、粒径およそ20μm前後という境界です。

20μm前後という数字が重要なのは、単なる粒の大きさの話ではありません。この粒径を境に、粗粒側には魚の骨由来とされる生物起源リン酸カルシウムが多く、細粒側には粘土鉱物が多いとされています。

レアアースが粗粒側に偏るのであれば、20μm前後を目安に分級し、レアアースを多く含む側を回収する設計が考えられます。

粒径区分

主な特徴

船上処理での考え方

20μm以上の粗粒側

生物起源リン酸カルシウムが多く、レアアースを比較的多く含む

回収・濃縮して持ち帰る資源側

20μm未満の細粒側

粘土鉱物が多く、レアアース濃度は相対的に低い

濁度・成分を管理し、環境配慮のもとで戻す側

もちろん、20μmという数字だけで全てが決まるわけではありません。対象海域の泥の性状、揚泥時の濃度、流量、粒度分布、海水との混合状態によって最適点は変わります。

それでも、この「粒径による偏り」は、船上で減容化を組み立てるうえで重要な出発点です。

20μm前後を境に、粗粒側の生物起源粒子と細粒側の粘土鉱物を分ける顕微鏡風の概念図

図6:20μm前後の分級イメージ

既往研究ではサイクロン分級が示されている

既往研究で分級方法として示されている代表例は、ハイドロサイクロンです。

サイクロンは、流体の旋回流を使って粒子を分ける装置です。構造が比較的シンプルで、連続処理に向いています。鉱物処理や泥水処理の分野でも広く使われてきた方式です。

Takaya et al.(2018)では、サイクロン分級によって粗粒側のレアアース濃度を高め、スラリー量を大きく減らせる可能性が示されています。

この点は非常に重要です。

南鳥島レアアース泥の商業化では、単に泥を揚げるだけではなく、「船上で分けて、運ぶ量を減らす」ことに技術的な根拠があるからです。

ただし、サイクロンにも運用上の注意点があります。流量や濃度の変動によって分離性能が変わる可能性があり、粒度分布や含水率が変動する泥水を相手にする場合には、前処理や流量制御を含めた設計が必要になります。

船上では、設置スペース、揺れ、塩害、保守性、電源、連続運転性も考えなければなりません。研究室や陸上試験で成立した処理が、そのまま洋上で安定して動くとは限らないのです。

デカンタ型遠心分離機が候補になる理由

一方、セイスイ工業が検討すべき選択肢のひとつとして注目するのが、デカンタ型遠心分離機です。

デカンタ型遠心分離機は、横置きのボウルを高速回転させ、遠心力によって固体と液体を分け、内蔵スクリューで固形分を連続的に排出する装置です。粘性のある泥水でも目詰まりしにくく、汚泥処理や泥水処理の現場で使われてきた方式です。

ここで誤解してはいけないのは、「既往研究のサイクロンをそのままデカンタに置き換えればよい」という話ではないことです。

サイクロンにはサイクロンの強みがあります。デカンタにはデカンタの強みがあります。場合によっては、サイクロンとデカンタを組み合わせる処理ラインも考えられます。

重要なのは、20μm前後で分けるという目的に対して、どの装置構成が最も安定して動くかを、実機条件で検証することです。

デカンタ型遠心分離機の横置きボウルと内蔵スクリューによる連続固液分離の仕組み

図7:デカンタ型遠心分離機の動作原理**

デカンタ型遠心分離機を船上処理の候補として考えた場合、主な利点は次の3つです。

1. 連続運転に向いている

ろ材でこし取る方式ではないため、粘性のある泥水でも目詰まりリスクを抑えやすく、連続処理に向いています。

2. 微細粒子を含む泥水に対応しやすい

遠心力を使うため、重力沈降だけでは分けにくい細かな粒子にも対応しやすい装置です。

3. 仮設プラントとして組み込みやすい

周辺機器と組み合わせることで、現場条件に応じた処理ラインを構成しやすい点があります。

ただし、デカンタ型遠心分離機を使えばすべて解決する、という話でもありません。船上での揺れ、塩害、消耗部品、電源、処理量、分級精度、戻し水の性状を含めて、実機での検証が欠かせません。

装置単体の性能ではなく、船上で安定して動かすための処理ライン全体の設計が重要です。

セイスイ工業が持つ泥水処理の現場知

セイスイ工業は、土木建設、浚渫、災害復旧、工場排水など、さまざまな現場で泥水処理に関わってきました。

こうした現場では、泥の性状が日々変わります。粒の大きさ、粘り気、含水率、混入物、処理量、薬剤の効き方も一定ではありません。図面上ではきれいに見える処理フローも、実際の現場では調整の連続になります。

特に仮設水処理では、限られたスペースに機材を入れ、短期間で立ち上げ、現場条件に合わせて安定稼働させる必要があります。急な処理量の増減や泥質の変化に対応しながら、装置を止めずに運用してきた経験は、洋上処理の設計にも応用できる部分があります。

もちろん、深海資源開発は陸上の泥水処理と同じではありません。船の揺れ、塩害、長距離輸送、海洋環境への配慮など、改めて検証すべき条件は多くあります。

だからこそ、既存の装置をそのまま当てはめるのではなく、海洋条件に合わせて前処理、分級、濃縮、戻し水管理を一体で設計する必要があります。

海に戻す水の品質を、最初から設計する

船上選鉱や減容化では、不要な水や細粒分を分けるだけでは不十分です。それを海に戻す場合、戻し水の性状をどう管理するかが重要になります。

確認すべき項目は、濁度や粒度分布だけではありません。金属成分、栄養塩、拡散範囲、戻す水深、周辺生態系への影響も含めて評価する必要があります。さらに、事前評価だけでなく、運用中のモニタリングも欠かせません。

つまり、減容化は単なるコスト削減の工程ではありません。

輸送量を減らすための処理であると同時に、海に戻す水の品質を整えるための環境工学の工程でもあります。

経済性と環境性を別々に考えるのではなく、同じ処理ラインの中で両立させる。ここに、泥水処理技術が関わる意味があります。

商業化を規定する三つの論点

南鳥島レアアース泥の可能性を現実のものにするには、資源量や採掘技術だけでなく、泥水処理を商業化の中心に置く発想が必要です。

具体的には、三つの論点があります。

第一に、どの粒径で分けるかを実データに基づいて設計することです。20μm前後は重要な目安ですが、実際には泥の性状や処理条件によって最適点は変わります。

第二に、船上で連続運転できる装置構成を検証することです。サイクロン、デカンタ型遠心分離機、前処理設備、濃縮設備をどう組み合わせるか。装置単体ではなく、処理ライン全体として考える必要があります。

第三に、戻し水の濁度、粒度、成分を管理し、環境影響評価と矛盾しない運用を組むことです。海へ戻す水の品質を最初から設計することが、社会的な理解を得るうえでも重要になります。

粒度分級、装置選定、戻し水品質の三要素が商業化の前提条件として関係する概念図

図8:商業化を規定する三つの論点**

連載のまとめ

南鳥島のレアアース泥をめぐる議論は、壮大な国家戦略の話に見えます。

日本の周辺海域に重レアアースを含む泥が存在する。それを活用できれば、資源戦略や経済安全保障にとって大きな意味を持つ。

この視点は非常に重要です。

しかし、その実装を支えるのは、もっと具体的な技術です。

泥をどう分けるか。水をどう戻すか。装置をどう止めずに動かすか。限られた船上スペースで、どう処理ラインを組むか。経済性と環境性を、どう同時に成立させるか。

これらはすべて、泥水処理の実務と直結しています。

2026年1月に予定される揚泥試験は、こうした論点を実データで確認する重要な機会です。セイスイ工業としては、デカンタ型遠心分離機を中心とした船上での減容化・選鉱というアプローチを、検討すべき選択肢のひとつとして提案します。

南鳥島の海底にあるのは、単なる泥ではありません。

しかし、その泥を資源に変えるには、採る技術だけでは足りません。運び、分け、戻し、処理し続ける技術が必要です。

地味に見える泥水処理こそが、日本の海洋資源開発の成否を左右する可能性があります。

用語解説

  • レアアース(希土類元素): スカンジウム、イットリウム、ランタノイド系元素を含む17元素の総称。永久磁石、触媒、蛍光体、電池などに使われます。
  • 重レアアース(HREE): ジスプロシウム、テルビウムなど、供給リスクが議論されることの多いレアアース元素群。
  • レアアース泥: 海底に堆積している、レアアースを比較的高い濃度で含む泥状の堆積物。
  • スラリー: 水と固体粒子が混ざった泥水状の流体。
  • 船上選鉱: 採取した資源を陸上に運ぶ前に、船上で選別・濃縮する工程。
  • 減容化: 水分や不要な微粒子を分離し、輸送・処理すべき体積を減らすこと。
  • ハイドロサイクロン: 旋回流を利用して、粒径や比重の違いで粒子を分ける装置。
  • デカンタ型遠心分離機: 横置きの回転ボウルと内蔵スクリューを使い、遠心力で固体と液体を連続的に分ける装置。
  • ちきゅう: JAMSTECの地球深部探査船。深海での長時間掘削が可能なライザー掘削船です。
  • SIP: 戦略的イノベーション創造プログラム。内閣府が主導する研究開発プログラム。

参考文献・出典

  • 髙橋洋一・松原仁・山田吉彦(2025)『ニッポンの国益を問う 海洋資源大国へ』産経新聞出版
  • 加藤泰浩(2012)『太平洋のレアアース泥が日本を救う』PHP新書
  • 鎌田浩毅(2012)『資源がわかればエネルギー問題が見える』PHP新書
  • Takaya, Y., Yasukawa, K., Kawasaki, T., Fujinaga, K., Ohta, J., Usui, Y., Nakamura, K., Kimura, J., Chang, Q., Hamada, M., Dodbiba, G., Nozaki, T., Iijima, K., Morisawa, T., Kuwahara, T., Ishida, Y., Ichimura, T., Kitazume, M., Fujita, T., Kato, Y. (2018) “The tremendous potential of deep-sea mud as a source of rare-earth elements,” Scientific Reports, 8, 5763.
  • Kato, Y., Fujinaga, K., Nakamura, K., Takaya, Y., Kitamura, K., Ohta, J., Toda, R., Nakashima, T., Iwamori, H. (2011) “Deep-sea mud in the Pacific Ocean as a potential resource for rare-earth elements,” Nature Geoscience, 4, 535–539.
  • 内閣府 科学技術・イノベーション推進事務局:SIP第3期「海洋安全保障プラットフォームの構築」関連資料
  • 国立研究開発法人 海洋研究開発機構(JAMSTEC):地球深部探査船「ちきゅう」および南鳥島周辺海域におけるレアアース泥関連情報
  • 内閣府 総合海洋政策推進事務局:海洋基本計画、海洋開発等重点戦略関連資料

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