セイスイ工業株式会社

水処理コラム

COLUMN

レポート

【第1回】南鳥島の「泥」が変えるかもしれない、日本の資源の話

2026年1月、深海6,000mから始まる揚泥試験を前に

南鳥島沖の大型探査船から深海約6,000mへパイプが伸び、海底の泥を汲み上げる揚泥試験の概念図

2026年1月、南鳥島沖で予定される揚泥試験のイメージ

2026年1月、地球深部探査船「ちきゅう」が南鳥島沖に向かい、深海の泥を汲み上げる試験を行う予定です。

この泥は、レアアースを高い濃度で含む「レアアース泥」と呼ばれています。レアアースは、電動車、風力発電、電子部品、防衛関連装備など、現代の産業を支える重要な素材です。日本の周辺海域にその供給源となり得る資源があることは、資源戦略や経済安全保障を考えるうえで大きな意味を持ちます。

一方で、南鳥島のレアアース泥は、陸上鉱山で採れる鉱石の塊とは違います。深海6,000mから揚がってくるのは、水、粘土、微細粒子、有用成分が混ざった「泥水」です。

つまり、本当に問われるのは「掘れるか」だけではありません。採算が合う形で運べるのか。船上でどこまで分けられるのか。海へ戻す水の影響をどう管理するのか。こうした実務の設計こそが、商業化の前提になります。

本連載では、泥水処理を事業としてきたセイスイ工業の視点から、南鳥島レアアース泥をめぐる論点を3回に分けて整理します。第1回では、南鳥島レアアース泥とは何か、そしてなぜ今このテーマが注目されているのかを見ていきます。

** 南鳥島沖の大型探査船から深海約6,000mへパイプが伸び、海底の泥を汲み上げる揚泥試験の概念図

南鳥島沖の揚泥試験イメージ

きっかけは、1冊の本だった

このコラムのきっかけになったのは、2025年6月に出版された『ニッポンの国益を問う 海洋資源大国へ』でした。同書が投げかけているのは、「日本は本当に資源小国なのか」という問いです。

日本は長く「資源小国」と言われてきました。エネルギー資源や鉱物資源の多くを海外に依存してきたことを考えれば、その見方は決して間違いではありません。

一方で、日本は広大な排他的経済水域を持つ海洋国家でもあります。陸上の資源に乏しくても、海底に眠る資源まで含めて考えれば、見え方は変わってきます。海底資源をどう活用するかは、産業政策であり、経済安全保障の問題でもあります。

ただし、資源量があることと、それを現実に使える形にすることは別です。

海底に資源があるとして、それをどうやって取り出すのか。どのように運ぶのか。どこで分けるのか。環境への影響をどう管理するのか。

この問いは、資源量の話だけでは答えられません。採取、選別、輸送、環境影響、処理コスト、連続運転性まで含めて考える必要があります。

南鳥島周辺のレアアース泥は、まさにその代表的なテーマです。そこにあるのは、鉱石の塊ではなく「泥」です。だからこそ、泥水処理を事業としてきた当社の視点から、このテーマを整理する意味があると考えました。

南鳥島の海底に何があるのか

舞台となるのは、日本の最東端に位置する南鳥島です。東京から約1,900km離れた太平洋上の島で、その周辺の水深5,500〜6,000mほどの海底に、レアアースを含む泥状の堆積物が広がっているとされています。

これが「レアアース泥」と呼ばれるものです。

日本列島と南鳥島の位置関係、および深海約6,000mの海底にレアアース泥が分布する概念図

図1:日本最東端の南鳥島と、水深約6,000mに分布するレアアース泥の概念図

レアアースとは、スカンジウム、イットリウム、ランタノイド系元素を含む17元素の総称です。名前からは特殊な金属のように聞こえますが、実際には私たちの産業を支える重要な材料です。ハイブリッド車やEVのモーター、風力発電の発電機、電子部品、触媒、蛍光体など、幅広い分野で使われています。

南鳥島周辺のレアアース泥が注目される理由は、量だけではありません。ジスプロシウム(Dy)やテルビウム(Tb)といった重レアアースを含む点も重要です。これらは高性能な永久磁石の耐熱性を高める用途などに使われ、脱炭素や電動化の流れの中で重要度が高まっています。

項目

概要

対象海域

南鳥島周辺(東京から約1,900km)

水深

約5,500〜6,000m

注目される元素

ジスプロシウム、テルビウムなどの重レアアース

想定される用途

EV、ハイブリッド車、風力発電、電子部品、防衛関連装備など

商業化の論点

採取、船上処理、輸送コスト、環境影響評価、連続運転性

国の政策としても動き始めている

南鳥島レアアース泥は、研究者や民間企業だけの関心にとどまるテーマではありません。内閣府のSIP、すなわち戦略的イノベーション創造プログラム第3期「海洋安全保障プラットフォームの構築」でも、南鳥島周辺の深海底からレアアース泥を揚泥し、国産資源の確保につなげる取り組みが進められています。

2025年時点の資料でも、南鳥島周辺海域におけるレアアース生産の社会実装に向け、深海6,000m級の揚泥管接続試験を開始する方針が示されています。

つまり、この話は「いつかできたらよい」という未来構想にとどまらず、試験と実証の段階へ進みつつあるテーマです。

ただし、国のプロジェクトとして進むからといって、商業化が自動的に実現するわけではありません。

資源を採る技術。泥を分ける技術。海に戻す水を管理する技術。抽出・分離・精製・廃棄物処理までをつなぐ技術。

これらが一体となって、初めて海底の泥は産業資源に近づきます。

海底の泥にレアアースが集まった理由

では、なぜ南鳥島周辺の海底にレアアースが集まったのでしょうか。

大まかに言えば、長い時間をかけて海の中で降り積もった粒子が、レアアースを取り込みながら堆積していったと考えられています。

海の表層では、魚やプランクトンなどの生物が活動しています。それらの死骸や骨片、微細な粒子は、時間をかけて海底へ沈んでいきます。こうした粒子が長い年月をかけて堆積し、続成作用や海洋環境の変化を経る中で、レアアースを含む泥として形成されていったと考えられています。

ここで重要なのは、レアアースが泥全体に均一に含まれているわけではないという点です。研究では、魚の骨由来とされる生物起源リン酸カルシウムなど、比較的粗い粒子側にレアアースが偏って含まれる傾向が示されています。

この「偏り」こそが、後に出てくる船上での分級・減容化の出発点になります。

魚の骨片やプランクトン由来の粒子が海底に沈み、長い時間をかけてレアアース泥になる過程

図2:レアアース泥の形成プロセス

第1回のまとめ

南鳥島レアアース泥は、日本の資源戦略や経済安全保障を考えるうえで重要なテーマです。

日本の周辺海域に、重レアアースを含む泥状の資源が存在する可能性は、これまでの「資源小国」という見方を問い直す材料になります。

しかし、資源があることと、それを使える形にすることは別です。

南鳥島のレアアース泥は、深海6,000mにあります。東京から約1,900km離れています。そして、揚がってくるのは鉱石ではなく泥水です。

だからこそ、このテーマでは「採れるか」だけでなく、「運べるか」「分けられるか」「戻せるか」が重要になります。

次回は、商業化を阻む最大の壁である「運ぶ」という問題を取り上げます。深海6,000mから揚げた泥水をそのまま運ぶと、なぜ経済性が厳しくなるのか。そして、船上選鉱や減容化という考え方が、なぜ重要になるのかを見ていきます。

参考文献・出典

  • 髙橋洋一・松原仁・山田吉彦(2025)『ニッポンの国益を問う 海洋資源大国へ』産経新聞出版
  • 加藤泰浩(2012)『太平洋のレアアース泥が日本を救う』PHP新書.
  • Kato, Y. et al. (2011) “Deep-sea mud in the Pacific Ocean as a potential resource for rare-earth elements,” Nature Geoscience, 4, 535–539.
  • Takaya, Y. et al. (2018) “The tremendous potential of deep-sea mud as a source of rare-earth elements,” Scientific Reports, 8, 5763.
  • 内閣府 科学技術・イノベーション推進事務局:SIP第3期「海洋安全保障プラットフォームの構築」関連資料
  • 国立研究開発法人 海洋研究開発機構(JAMSTEC):地球深部探査船「ちきゅう」および南鳥島周辺海域におけるレアアース泥関連情報

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