凝集剤とは?PAC・ポリマー・天然系…どれを選ぶ?凝集剤の種類と違いを解説

前回の記事では、「凝集」の原理や処理工程、水処理における重要性を解説しました。今回は、その中核を担う“凝集剤”に焦点を当て、種類ごとの特徴と使い分けのポイントを紹介します。
凝集剤は、水中のコロイド状物質や懸濁物質を凝結・凝集させてフロック化させる薬剤で、無機系・高分子系・天然系などがあります。水質や処理目的に応じて適切に選ぶことで、処理効率やコストに大きく影響します。
近年は、環境対応型や高機能なタイプも増えており、選択肢が広がっています。本記事では、各凝集剤の違いや選定のヒントをわかりやすくお伝えします。
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目次
凝集剤の基本分類
凝集剤は、大きく「無機系」「高分子系」「天然系」の3つに分類されます。それぞれ原料や作用の仕組み、得意とする処理対象が異なるため、水質や目的に応じて適切に使い分けることが大切です。どの凝集剤を選ぶかによって、処理の効率や汚泥量、コストにも大きな違いが生まれます。
ここからは、各タイプの凝集剤について、その特徴や向いている用途をわかりやすく紹介していきます。

無機凝集剤
無機凝集剤は、アルミニウム塩や鉄塩などの金属塩を主成分とする薬剤で、古くから広く使われています。代表的なものにPAC(ポリ塩化アルミニウム)や硫酸アルミニウムがあり、電荷中和作用が強く、低コストで大規模処理に向いているのが特長です。
- PAC:溶解性がよく、安定したフロックを形成
- 硫酸アルミニウム:伝統的で幅広い用途に対応
- 鉄系凝集剤(硫酸第二鉄など):脱色やリン除去に効果的で、pHを下げる作用もある
ただし、汚泥が多く発生しやすく、pH調整が必要な場合もあるため、使用時は水質や目的に応じた選定が大切です。
高分子凝集剤
高分子凝集剤は、合成樹脂をベースにした長鎖構造の薬剤で、粒子同士をつなぐ架橋作用により、大きく強いフロックを形成します。少量で高い凝集力が得られるため、脱水や仕上げ処理によく使われます。電荷の違いで分類され、対象とする粒子や水質に応じた使い分けが重要です。
- カチオン系(陽イオン):有機汚泥や負電荷のコロイド粒子に適応
- アニオン系(陰イオン)・両性タイプ:無機粒子や特定の排水に有効、無機凝集剤と併用するケースも
- ノニオン系(非イオン性):電荷を持たず電気的干渉が少ないため、複雑な排水や他の凝集剤との併用に適応
無機系に比べ薬剤コストは高めのため、事前にジャーテストでの確認が推奨されます。
天然系凝集剤
天然系凝集剤は、キトサンやデンプンなどの自然由来成分を主原料とした薬剤で、環境負荷が少なく、安全性の高さが特長です。食品や医薬品分野でも使用できるものがあり、近年注目が高まっています。
- キトサン:甲殻類由来。陽イオン性でコロイド粒子と結合しやすい
- デンプン系凝集剤:トウモロコシやイモ類由来。改質により幅広い水質に対応可能
ただし、一般的な無機や高分子系に比べると処理効率やコスト面で課題があり、使用には用途に応じた選定が重要です。
凝集剤の種類別 比較表
分類 | 主な原料・成分 | 特徴 | 主な用途・適正 | 注意点 |
---|---|---|---|---|
無機凝集剤 | アルミ塩(PAC、硫酸Al)、鉄塩 | 電荷中和力が強く、低コストで大量処理に最適 | 上水・下水処理、一般産業排水 | 汚泥が多く出る/pH調整が必要 |
高分子凝集剤 | 合成ポリマー(長鎖構造) | 少量で強い凝集力。フロックが大きく脱水性◎ | 脱水処理、仕上げ処理、混合使用 | 単価が高め/事前試験が望ましい |
天然系凝集剤 | キトサン、デンプンなど | 生分解性◎ 安全性が高く環境負荷が小さい | 食品・医薬・環境配慮型処理 | 処理効率・コストに課題がある |
PAC(ポリ塩化アルミニウム)とは?
無機凝集剤の代表格であるPAC(ポリ塩化アルミニウム)は、プレポリマー化されたアルミニウム塩を主成分とする凝集剤です。溶解性や操作性に優れ、幅広い水質に対応しやすいことから、さまざまな水処理の現場で使われています。
特徴
- 短時間で強力な凝集効果:粒子の表面電荷をすばやく中和し、フロックを効率よく形成しやすい
処理時間の短縮につながる - pH変動が少なく安定した運用が可能:中性付近でも効果を発揮しやすく、pH調整や薬剤追加の手間を削減
- 沈殿促進とろ過負担の軽減フ:ロックの沈降が速く、ろ過装置への負担を抑えられ、設備全体の処理効率が向上
主な用途
PACは、上水道の浄水処理をはじめ、食品・化学工場などの排水処理、染色や油分を含む難処理排水にも有効です。大量処理でも安定した結果が得られるため、公共施設から民間工場まで幅広い現場で採用されています。
PACと硫酸アルミニウムの比較
項目 | PAC(ポリ塩化アルミニウム) | 硫酸アルミニウム |
---|---|---|
主成分 | プレポリマー化されたアルミニウム塩 | アルミニウム塩(硫酸) |
フロック形成の速さ | 速く安定、少量で効果が出やすい | 比較的ゆっくり。多めに使う傾向がある |
溶解性・操作性 | 溶解しやすく扱いやすい | 調整が必要な場合もあり |
pHへの影響 | 影響が小さく、幅広いpHに対応 | pH低下を招きやすい |
コスト | やや高めだが、トータルコストでは有利 | 単価は安価 |
主な用途 | 上水・下水・産業排水など幅広く対応 | 上水処理での利用が中心 |
PAC選定時の注意点
PACは高性能な凝集剤ですが、水質や目的に応じた調整が重要です。以下のポイントに注意することで、より効果的に運用できます。
- 投入量の調整:過剰投入は汚泥やコスト増につながるため、ジャーテストで適量を確認
- 水温・水質の変動に注意:低温や極端なpHでは凝集効果が落ちる場合あり
- 薬剤の相性確認:pH調整剤や中和剤などとの併用時は、事前に影響をチェック
まとめ:凝集剤を正しく選ぶことが処理の鍵を握る!
凝集剤は、水質や目的に応じた選定が重要です。無機系はコストと安定性に優れ、高分子系はフロック形成や脱水処理に強みがあります。天然系は安全性や環境面でのメリットが魅力です。
中でもPACは幅広い水質に対応でき、実用性の高い選択肢として多くの現場で使われています。
凝集剤の選定や使い方は、処理効率やコスト、さらには環境負荷にも大きく影響する重要なポイントです。次回は、「アニオン?カチオン?高分子凝集剤の違いと選び方を解説!」と題して、各タイプの特徴や仕組み、選定のコツをわかりやすくご紹介します。