ネイチャーポジティブと水処理|「きれいな水」から「豊かな水環境」へ
排水基準は守っている。水使用量の削減にも取り組んでいる。それでも、「自社の水処理をネイチャーポジティブにどう結びつければよいのか」と悩んでいないでしょうか。
ネイチャーポジティブとは、自然への悪影響を減らすだけでなく、失われつつある生物多様性を回復へ向かわせる考え方です。森林保全や植樹が注目されがちですが、企業が使用する水や工場から出る排水、処理の過程で発生する汚泥も、地域の自然環境と深く関わっています。
水の使用から排水・汚泥の処理まで見直すことは、水環境への負荷を抑え、生物多様性を支える取り組みにつながります。しかし、「何から始めるのか」「現在の処理で十分なのか」「社内でどう説明するのか」が分かりにくいのも事実です。
この記事では、ネイチャーポジティブの基本と水処理との関係、企業や自治体が取り組める具体策を、初心者にも分かりやすく解説します。
👉 この記事でわかること
- ネイチャーポジティブの基本と、水処理・生物多様性との関係
- 排水処理、水の再利用、汚泥の資源循環で企業が取り組めること
- 設備改修やトラブル時に、水環境への負荷を抑える方法
目次
ネイチャーポジティブとは?水処理との関係をわかりやすく解説
ネイチャーポジティブは、森林や生きものの保全だけを指す言葉ではありません。企業が水をどのように使い、処理し、自然へ戻すかも深く関係しています。
「自然を守る」から「自然を回復させる」へ
ネイチャーポジティブとは、自然への悪影響を抑えるだけでなく、生物多様性の損失を止め、回復へ向かわせる考え方です。日本語では「自然再興」と表されます。
これまでの環境対策では、汚染を防ぐ、資源の使用量を減らす、残された自然を守るなど、自然に与えるマイナスを小さくすることが重視されてきました。もちろん、こうした取り組みも欠かせません。
ネイチャーポジティブは、そこからさらに一歩進み、すでに損なわれた生態系や自然が本来持っていた働きを、より良い状態へ戻すことを目指します。つまり、「これ以上悪くしない」だけでなく、「自然を回復軌道に乗せる」という考え方です。

水環境と企業活動の関係|水処理が果たす役割
川、湖、海、干潟などは、魚や貝、水草、微生物をはじめとする多くの生きもののすみかです。水質の悪化や過度な濁りは、水中に届く光や酸素の状態を変え、生きものに影響を及ぼす可能性があります。水環境を守ることは、生物多様性を支えることでもあるのです。
一方、企業は製造、洗浄、冷却などで水を利用し、水資源に依存しています。同時に、取水や排水、汚泥の発生を通じて、水環境へ影響を与える側でもあります。
そこで重要になるのが水処理です。排水基準を守ることを前提に、水の使用量、放流先、発生する汚泥まで把握し、適切に管理することで、周辺環境への負荷を抑えられます。水処理を単なる設備管理ではなく、地域の水環境を支える取り組みとして捉え直すことが、企業にできる第一歩です。
水処理は「汚れを取り除く」だけではない
水処理の基本は、排水に含まれる汚れや有害物質を取り除き、法令や条例で定められた基準を守ることです。しかし、ネイチャーポジティブの視点では、放流先の水環境まで考える必要があります。
排水基準を守ることはゴールではなくスタートライン
工場や事業所の排水には、pH、BOD、COD、SS、窒素、リンなど、さまざまな管理項目があります。適用される基準を守ることは、水環境への負荷を抑えるための大前提です。ただし、排水基準は「どの水域でも、この状態が最も望ましい」と示すものではありません。業種や排水量、放流先、自治体の条例などによって、求められる管理は異なります。だからこそ、基準値を下回ったかだけでなく、どこへ、どのような水を戻しているのかまで把握することが大切です。
水環境の課題は地域によって異なる

水環境に一つの正解があるわけではありません。窒素やリンが多すぎれば、富栄養化や赤潮などの原因になることがあります。一方、瀬戸内海のように水質改善が進んだ結果、栄養塩類の不足によってノリの色落ちなど水産資源への影響が生じている海域もあり、地域の状況に応じて下水処理場の運転を調整する取り組みも進められています。
つまり、水は単純に「きれいにすればよい」のではなく、地域の生態系や利用目的に合った状態を考えることが重要です。企業の排水処理でも、放流先の特徴や季節による変化を知ることが、水環境への影響を考える出発点になります。
ネイチャーポジティブにつながる水処理の3つの取り組み
水処理をネイチャーポジティブにつなげるには、排水を処理するだけでなく、水の使い方や処理後に残るものまで見直す必要があります。ここでは、企業が取り組みやすい3つの視点を紹介します。
水の使用量を減らし、処理水を再利用する
まずは、どの工程で、どれだけ水を使っているかを把握します。洗浄方法の見直しや工程内での循環利用によって、新たな取水量と排水量を減らせる可能性があります。処理した水も、水質や用途の条件を満たせば、洗浄、散水、冷却などに再利用できます。ただし、再利用には追加の設備やエネルギーが必要になる場合があります。そのため、使用する水の量だけでなく、処理に必要な電力や薬品も含め、環境負荷全体で判断することが重要です。
排水を適切に処理し、地域に合った水質を守る
排水基準を守ったうえで、放流先が河川、湖、海のどこなのか、周辺にどのような生きものがいるのかを確認します。それによって、特に注意すべき水質項目も変わります。濁り、有機物、窒素、リンなどを一律に減らすだけでなく、放流先の特徴や季節変化を踏まえて管理することが、地域に合った水質を守ることにつながります。
汚泥・土砂・処理水を資源として捉え直す
水処理では、汚泥や土砂、処理水が発生します。これらをすべて廃棄するものとして扱うのではなく、脱水や分級によって分け、再利用できる可能性を検討することも重要です。
たとえば、下水汚泥に含まれるリンを回収したり、条件を満たす汚泥を肥料原料として利用したりする取り組みが進められており、国土交通省は2030年度(令和12年度)までに下水汚泥資源の肥料利用量を倍増させる目標を掲げています。
ただし、汚泥や土砂には重金属などが含まれる場合もあり、すべてを再利用できるわけではありません。成分、安全性、法令、利用先を確認したうえで、「捨てる前に、活かせるものを分ける」という視点を持つことが、資源循環とネイチャーポジティブの両方につながります。

企業・自治体は何から始める?水処理を見直す2つの手順
ネイチャーポジティブを水処理に取り入れるために、すぐ設備を入れ替える必要はありません。まず現状を把握し、平常時と非定常時の課題を整理したうえで、必要な対策を選びます。
自社と水環境の関係を把握する
最初に確認したいのは、どこから水を取り、どの工程で使い、どのような状態で戻しているかです。取水量や排水量だけでなく、放流先の河川や海、発生する汚泥の量・性状、水処理に使用する電力や薬品まで整理します。自治体の場合は、処理区域や流入量、周辺の水利用、生態系との関係も確認します。すべてを一度に調べるのが難しい場合は、水使用量や排水量が多い施設、過去にトラブルが起きた工程など、影響が大きい場所から始めると取り組みやすくなります。
平常時と非定常時の対策を考える|一時的な処理不足には仮設水処理
水処理は、設備が通常どおり動く「平常時」と、故障、改修工事、災害、処理量の急増などが発生する「非定常時」に分けて考える必要があります。
平常時には、水使用量の削減、処理水の再利用、設備の運転改善、汚泥の減量化などを進めます。一方、非定常時には、常設設備が停止した場合や、処理能力を超えた場合の対応を準備しておくことが重要です。
設備の故障や更新、浚渫、災害などで一時的に処理能力が不足すると、濁水や泥水、汚泥を適切に処理できず、周辺の水環境や衛生に影響を及ぼすおそれがあります。そのためだけに常設設備を増設すると、費用や工期、設置スペースが大きな負担になることもあります。こうした場面では、必要な期間だけ機器を設置する仮設水処理が選択肢になります。水量、水質、汚泥の性状、設置場所などに合わせて、濁水処理、固液分離、汚泥脱水などを組み合わせます。
仮設水処理は、ネイチャーポジティブを直接実現するものではありません。しかし、常設設備を補い、処理を止めず、水環境への一時的な負荷を抑える手段として活用できます。

まとめ:水処理を「自然への負荷を減らす仕組み」から「水環境を支える仕組み」へ
ネイチャーポジティブを水処理につなげるには、排水基準を守るだけでなく、水の使用量、放流先、汚泥の処理方法、処理水の再利用まで把握することが重要です。
水使用量の削減、地域に合った排水管理、汚泥や土砂の資源化を進めることで、水処理を資源循環や水環境の保全につなげられます。また、設備の故障や改修、工事、災害など、通常どおり処理できない場面への備えも欠かせません。
セイスイ工業では、こうした一時的な処理能力の不足に対し、現場の水質や汚泥の状態に合わせた仮設水処理を提案しています。常設設備を補い、処理を継続することで、周辺環境への負荷を抑えます。
地域の川や海、その先で暮らす生きものまで見据え、水環境を支える仕組みとして水処理を捉え直すことが、企業や自治体にできるネイチャーポジティブへの一歩です。




